egg





 基本的に三橋が好きな食べ物は世間一般で言うお子様が好きな食べ物と同じ。
 カレーライスにハンバーグ、エビフライにふわふわのオムレツ。
 こんもりと盛られたサラダもきちんと食べるので栄養のバランスに偏りはない。
 というか薬学専攻ながらカロリー計算も得意分野のうちの一つである栄口の作る食事は質と量共に申し分ない。
 幸せそうな笑顔で食べてくれる人がいれば誰だって料理の腕が上がる、が持論。
 
 「さて、今日の夕飯は何にしよっかな」

 休養日前日の授業は若干早めに終わる。
 のでガーデンの施設内にあるでカゴを提げつつゆっくりと献立を考えることができる。
 カゴはカートではなくて手持ちが原則だ。持ち帰れる重さだけ買う、イコール使い切れる量ということで。
 三人で生活するには些か大きすぎる気がしないでもない冷蔵庫には休養日に買い込んだ食材がみっちり詰まっている。
 専用フリーザーもあるので通常毎日買い物することはない。というかそんな体力がない。時間もない。
 が、休養日の前日の夕食と休養日の食事は別だ。
 時間があるし食事だって充実させたい。
 料理は趣味でもあるので思いっきり仕込みに時間がかかるけれども食べるのは一瞬、みたいな料理にも挑戦したい。
 ということで栄口は葛藤していた。
 鼻歌を歌いながらだったので楽しい葛藤ではあったが。

 「あれ? 栄口?」
 「ああ、浜田さん」
 「お前もするんだっけ、料理」
 「しますよ。あ、もしかして卵安いんですか?」
 「今日の目玉商品。全品半額」
 「! それは確かにお買い得ですねえ」
 「だろ? パスタとベーコンも安くてさあ」
 「あー、お陰で今日の献立決まりました」
 「乗せられるよなあ、でもそっちのが節約できるしな」
 「主婦の知恵も馬鹿に出来ないですからね。じゃあ」
 「おー。またなー」

 いつもは手が出ない少々お高めの卵を迷うことなくカゴに入れ、在庫はあるけれども今日消費するパスタも突っ込む。
 ベーコンに生クリーム、明日の朝食用にフランスパンもカゴに入れて。
 メープルシロップはまだストックがあったので今回は見送り。
 また明日も買い物に来るので今日はそんなに買い込まない。
 明日はカートで買い物。もちろん荷物持ちは花井の役割だ。三橋には広告の品のトイレットペーパーを持ってもらう。
 本当は何も持たせたくないところだけれど、それをするととても悲しそうな顔をするので。
 ので、指、手、及び肘と肩、つまり腕に負担がかからないようなものだけ持ってもらうことにしている。
 
 「さ、かえぐち くん」
 「栄口」
 「あれ、二人一緒? 珍しいね」
 「さっきまで合同基礎訓練だったからな。今日は袋小さいな」
 「うん。明日大量に買い込むからよろしく」

 今日は手伝ってくれなくて平気だよ、と言外に告げ肩を並べてのんびりと帰る。
 一日何があったか、とか。
 明日は何をしようか、とか。
 まるで家族みたいだよなあ、なんて平和なことを考えながら。




 「卵、と、フランス パン」
 「明日の朝はフレンチトーストな」
 「! 大、好き!!」

 食べ物に関しては直球で自分の感情を表現できる三橋の笑顔に癒されつつ、栄口は鍋に大量の湯を沸かし始めた。