hug




 銃火器専攻の生徒が共通して苦手とするものに他者からの接触、というものがあるらしい。
 特に利き手、指、肩。
 自分の管理を徹底していればいるほどその傾向が強い。
 さほど自分の体調管理に気を使っていないというか全くと言って良いほどケアをしない三橋は違った意味で。
 諸事情により基礎クラスを他の『ガーデン』で過ごしていた三橋は、本当に接触に弱い。
 それは己の利き手に傷が付くのを恐れるのではなくて、多分に。

 「暴力でも振るわれてたのかな」
 「かもな」
 「こんどあの王子様に聞いてみる?」
 「クラスは違ったらしいぞ」
 「それでも見て見ぬ振りしてたんなら俺は許さないけど」
 「手出しできない理由があったのかもしれなくても?」
 「どうして花井はそうかなー」
 「……初対面で怖がられたの、未だに尾を引きずってんだよ」
 「うわ、意外とナイーブだね」
 「ほっとけ」

 三橋の同居人の二人、栄口と花井はそうでもないが。
 今日、花井と同専攻の田島の過剰なスキンシップに三橋は目を白黒させていた。
 震えているのに気付いた田島が力加減を誤ったのかと問うと全力で首を振った。
 じゃあ何が怖いと問われたところで黙り込んでしまった。
 気に入った相手に怖がられた田島はそれでも笑顔でこれから慣れてくれよと言い残して去っていった。
 途方に暮れたような顔で自分たちを見上げた三橋に、どう返したら良いものか夕飯の準備をしながら悩む二人であった。
 ちなみに三橋はリビングで洗濯物を畳んでいる。刃物を持たせるなんてとんでもないし食器だって油断できない。
 プラスチックだったら安心できるけれど。銃火器専攻でもない二人が。
 
 「にしても、慣れさせるって毎日三橋に抱きつくつもりかな」
 「榛名さんとか高瀬さんが見たら騒ぎそうだな」
 「あの人たちだって似たようなことしてるのにね」

 今日の夕飯はカレーだ。三橋が元気のないときはこれに限る。大好物なので。

 「俺たちもしてみる?」
 「は?」 
 「田島みたいに勢い良くとはいかないけど、ぎゅっと抱きしめてみるのはありじゃない?」
 
 サラダの野菜を切り終えた栄口は手を洗ってタオルで拭くとおもむろにリビングを振り返る。
 よいしょよいしょと効果音を付けたくなるくらい一生懸命洗濯物を畳んでいる三橋に近付いて。

 「三橋、ちょっと良い?」
 「? なあに?」

 色々と考慮したらしく、後ろからではなく前から三橋を抱きしめた。
 一瞬三橋が凍りつくがすぐに解凍する。
 
 「どう、したの、栄口、くん」
 「いやー、昼間田島がしてたの見てたら俺もしたくなってね」
 
 にっこりと笑いかけ、目顔で花井を呼ぶ。
 後は煮込むだけになったカレーを弱火にして、手を洗ってタオルで拭いて。
 腕を解いた栄口に代わって今度は花井が三橋をぎゅっと抱きしめた。

 「花井、くん、も?」
 「ま、そうだな」
 
 そういえばハイタッチもあまり馴染みがないようだったなあと思いつつ。
 なんであんなに食ってんのにこんなに細いんだと、思わず細い腰を撫でてしまったところで手の甲が抓られる。

 「花井、趣旨は何だっけ?」
 「三橋に慣れてもらう、だろ。分かったから離せ」
 「まったく。三橋がビックリしてるだろ」

 そんなに身を固くされるほどいやらしい撫で方をしてしまっただろうかと手を離す花井をきょとんとした顔で見上げ。
 三橋は三橋なりに結論を導き出した。

 「「三橋?」」
 「あ、俺、も、しない、と、不公平……?」

 ぎゅっと縋るように花井の背に腕を回した三橋はすぐに花井から離れて隣の栄口にも同じようにする。
 自分だけされる、つまり自分だけ何かをしてもらうというのは良くないことだ、と。
 そういう結論に辿り着いたらしい。
 返事を待つ三橋に二人はやっぱり目顔で頷きあった。

 「俺と花井には良いけど、他の人にはしなくて良いんだよ」
 「そう、なの?」
 「そうじゃないとお前が取られすぎて不公平になるんだからな」
 「俺、が取られ、すぎる」
 「そう。だから三橋はぎゅーっとされてるだけで良いんだよ。俺と花井以外にはね。分かった?」
 「う、ん」
 「そしたらこれ畳んでメシにしよう」

 二人でふわふわな三橋の髪の毛を撫でて、キッチンに戻る。
 三橋は残りの洗濯物を一生懸命畳む。

 「誤解の種は撒かれる前に回収しておかないとだね」
 「だな」

 

 今日も今日とて栄口と花井は保護者街道驀進中なのであった。