morning 朝一番早いのは栄口。 二番目が花井。 とはいうものの二人が起きる時間に大して差はない。順番が逆転するのも珍しくない。 問題は、最後の一人。 別に寝汚いわけではないけれど、よく寝惚ける。 稀に自分から起きることもあるけれど、大半は起こされる側だ。 「さあ、朝の一勝負だよ花井」 「だな」 「「最初はグー、じゃんけんぽん!!」」 「じゃ、俺朝飯で」 「悪いな」 「いえいえ」 開錠のスキルを必須としている自分たち。 ゆえに本当に部屋に入って欲しくないとき以外は常に鍵は開けっ放し。 それでも一応礼儀として、部屋の主は眠っているけれども礼儀として。 律儀にノックをしてから花井はドアを開けた。 「三橋、朝だぞ」 とりあえず一言かける。まあこれで目覚めることは滅多にない。 カーテンを開けて太陽の光を取り込んでからもう一度。 「三橋、朝。起きろ?」 眩しかったのか身じろぎをするものの、やはり起きない。 まあ、これもいつものこと。 幸せそうに眠っている姿はまるで天使のようだが、寝させておくわけにもいかない。 今日もまた授業と訓練が山積みで、遅刻などしようものなら可哀相なのは三橋本人だ。 「三橋、朝飯食いっぱぐれるぞ」 ゆさゆさと左肩を揺さぶり(右肩は利き肩なので)布団に手をかけべらりと捲れば。 寒いのか丸く縮こまってそれでも起きない。 猫のような状態になるのもまあいつものこと。 問題はここからだ。 他の奴らに見られようものなら恐ろしい事態を引き起こすに違いない。 けれども確実に三橋が起きる方法。 「三橋」 耳元でそっと囁いて、額にかかっている柔らかい髪の毛をかきあげる。 そのままてのひらを滑らせてふっくらした頬を撫で、もう一度耳元で名前を呼ぶ。 「……ん、ぅ」 「朝だぞ、起きろ?」 できる限り優しく囁く間に、栄口はそうでもないらしいが花井は覚悟を決める。 普通と言うか、欧米の家庭では普通らしいそれをする覚悟を。 なぜか眠りに就く前ではなく目覚めるときに三橋は必要とする。 お陰で二人の間でこっそりとついた呼び名が『眠り姫』ならぬ『寝ぼすけ姫』 「……ん、は、ない、くん?」 「おう。おはよう、三橋」 「お、はよう、ござい、ます」 「着替えて顔洗って歯磨いたらメシだからな」 「う、ん。あ ありが、とう」 「どういたしまして」 額に口付けを落とすと、ゆっくりと白い瞼が持ち上がって飴色の大きな目が開く。 実に不思議なのだが、どうやら原因は従姉妹にあるらしい。 彼女曰く『お姫様は王子様のキスで目を覚ます』に憧れた子供の頃、最後の部分だけを親に頼んだ、と。 同じ家で暮らしていた三橋にもなぜかそれが適用されていた、と。 もちろん彼女はその習慣をとっくに卒業したが根が素直すぎる三橋は未だにそれを必要とする。 三橋を起こす方法を花井と栄口に伝授したときの彼女の笑顔ほど清々しいものはなかった。 「下手なのが同室じゃなくてよかったね」 「まったくだ」 こうして三人の朝は始まる。