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 白兵戦専攻の生徒が大活躍するのかと思いきやそうでもないイベントの一つとして体育祭なるものが存在する。
 まあ、基本的にどの専攻でも体力は必須だし、運動神経を必要とする専攻も多いので一人勝ちにはならない。
 長距離走は意外と銃火器専攻が粘るし、団体競技になると余計にその傾向が強くなる。
 どうにも白兵戦専攻は他の生徒イコールライバル意識が強いようで協調性に欠けることもある。
 参謀専攻は様々な専攻の生徒の情報を元に綿密な計画を練り上げ着実に得点を重ねていく。
 日頃の鬱憤を晴らすが如く、正々堂々と対決できるとあってもはや団体戦というか個人戦に近い輩も見受けられる。
 午前中の競技の結果は薬学専攻が若干遅れをとっているもののまだ巻き返し可能。
 僅差で白兵戦専攻が一位、銃火器専攻が二位に甘んじている。
 一つの競技の結果如何でどうとでも転がるような点差。
 
 「三橋、お昼もう良いの?」
 「あ、の、俺、次、の」
 「「次?」」

 栄口と花井という専攻の枠を飛び越え、ではなく同居人と昼食を取っていた三橋がそわそわし始めた。
 まだ昼休憩は半ばを過ぎたのみ。しかもこれから大勝負なのに、いつもよりもその量が少ないとはどういうことか。

 「れーん、お、ここにいたのか。午前中巻きだったから十五分後に集合な」
 「集合? え、まさか榛名さん次の競技に三橋をエントリーさせたんですか?」
 
 三橋の二人の先輩の内の一人である榛名が足取り軽くこちらに向かってきた。
 呼びかけられた言葉の内容で、二人は三橋が早めに昼食を終えようとしていた理由を理解した。

 「教官から点稼ぐのに真っ向勝負じゃつまらねえからな。むっさいのは白兵がやんだろ」
 「まあ、うちは確かにむさいですけど」
 「だろ? だからうちはこれが伝統なんだよ」
 「伝統って……もしかして榛名さんもやったんですか?」
 「俺と高瀬も市原もやってるし、香具山さんとかやってるぜ?」
 「……今年は当たりだったってことで」
 「おう。だからお前ら写真撮っとけよ。後で寄越せ」

 言うだけ言って榛名はさっさと背を向けて歩き出した。
 顔を見合わせた二人をよそに、三橋は再びおにぎりに手を伸ばす。
 
 「三橋、嫌じゃなかったの?」
 「み、んな、やる、って、言って、た よ」
 「お前もうちょっと疑問に思ってくれ。いろんなこと」
 「?」

 三橋だって別に好きでやるわけではないけれども、二人の先輩がそれをしたという証拠を突きつけられては首を横に触れなかった。
 それに一人ではないし、一位を取ったら先輩たちが皆でたくさんお菓子をくれるという。
 自分がそんな格好をすることは同居人の二人にとって恥ずかしいことだったかもしれない。

 「ご、めんな、さい」
 「え、何、どうしたの三橋」
 「お、れが、恥ずかしい、かっこ、したら、二人、も」
 「「それはない」」
 「?」
 「や、お前が無理やりさせられるんじゃないんだったら俺らは別に良いんだ」
 「そうそう。別に恥ずかしくないし。むしろ自慢しちゃえるんだよ、そういうのは」
 「そう、なの?」
 「そう。だから三橋は気にしなくて良いし凹まなくて良いんだよ」
 
 栄口の素早いフォローに事なきを得た。
 ほうっと息を吐き出した花井に栄口が目で『貸し一つ』と訴えるのに頷き返しておく。
 三橋の無限ループ勘違いそして自己嫌悪へ、の芽を早急に摘み取り誤解を解くのはもどかしいけれども大切なことだ。
 
 「ま、俺はもう出番ないから二人の勇姿をきちんとおさめておくことにするよ」

 まだ時間があるらしいからたくさん食べておきなよ、と三橋にコップとおかずをすすめて栄口は厳かにのたまった。
 花井はこの後もリレーやら騎馬戦やらパワーアンドスピード系の種目に借り出されるらしい。
 三橋は応援合戦が終わったらしばらくは観戦で長距離走を残すのみ。
 
 「お父さん頑張ってって応援するから。ね、三橋」
 「? うん!」
 「そこは同意しなくて良いから」

 密かに綱引きはそれっぽいと自分でも思っていたので花井は訂正を入れておくことにした。
 



 「で、可愛いチアガールズのお陰で応援合戦は満場一致の一位と」
 「はっちゃけてたもんねえ、特に叶」
 「はっちゃけないとやってられないだろ、あれは」

 チアガールの衣装とポンポン、そしてチアダンス。
 綺麗ドコロというか可愛いドコロは三橋と叶の二人だけだったが、息の合ったチアダンスで銃火器専攻は応援合戦を制した。
 三橋がそんなに嫌がらなかった理由も良く分かった。皆ポンポンで可愛いヘアゴムまではお揃いだったのだ。
 スカートとスパッツのセットかパンツという差しかない、と判断したのだろう。確かにそう取れないこともなかった。
 後輩の扱いを学んでおこう、と密かに栄口と花井が思っても仕方のないこと。

 「チアガールズの写真の申し込み、3ケタのったらしいよ」
 
 最後の最後で三橋だけ仕込まれていたらしい叶の頬へのキスは大きな悲鳴と人気を得た。
 ちなみに仕込んだのは市原らしい。去年榛名と高瀬に両頬を奪われた腹いせだったらしいが、なんともはや。

 「焼き増ししたらいくらぐらい入ってくると思う?」
 「商売は止めておけよ」
 「三橋に美味しいもの食べさせてあげようってだけだよ。商売になりそうな写真は俺らの観賞用だから」
 「……あ、そ」

 それだったら見て見ぬ振りをしておこうと花井は決心した。
 犠牲となった叶には悪いが、銃火器専攻の可愛い子ちゃんの称号なぞ三橋に付けられたらえらい騒ぎになる。
 あとで何か差し入れておけば良いだろうということで、二人はその話を止めた。