そんなに驚くことはないだろうに。 不意打ち 「ここは凄く嫌な感じがするから気をつけろよ」 「うん」 「「え?」」 九龍が寮の裏手の墓場から遺跡へ潜ると聞いたので同行した。 待ち受けていたのはクラスメートの八千穂と。 偶然を装ったに過ぎない皆守。 見送る立場を明らかにすれば、二人から疑問の声が上がった。 「あんたは行かないのか?」 「行かないよ。これは九龍の役目だ」 「え、じゃあ緋勇君は何しに来たの?」 「見送りだよ。いってらっしゃいといってきますがなきゃ人は旅立てない」 既に俺の知っている可愛い九龍から切り替わりつつある九龍には。 俺たちのやりとりは耳に入っていないのかもしれない。 俺を『龍麻お兄ちゃん』と呼び慕う九龍と。 今こうして遺跡に潜ろうとしている宝探し屋の九龍は俺からすれば異なる存在だ。 いや、俺がここにこうしていることが九龍を歪めてしまっている、といった方が正しいのかもしれないが。 「九龍、皆守、八千穂。気をつけていっておいで」 こくりと一つ無言で頷き闇の中に身を溶かした九龍の後を追うように、と。 八千穂を促せば、大きく深呼吸をして。 「いってきます、緋勇君」 覚悟を決めて潔く、縄に手をかけた。 さて。 「俺が潜らないのがそんなに不満か?」 「そんなことは一言も言っていない」 「ならさっさと行け。俺の可愛い九龍の行く先を見届けるんだろう、少年」 「な」 一閃。 驚愕に目を見開いた皆守を蹴り飛ばして突き落とす。 まあ、着地に失敗することはないだろう。 「俺が新宿に戻ってきたからには、この胡散臭さを放置しておくわけにはいかないな」 三人が飛び込んだ穴から、ではない。 この学園全体が既に異様な気を放っている。 せっかく鎮めているあれを押さえつけるので精一杯だ。 のでこの中に入ることができない。遺跡そのものを破壊する可能性だって無きにしも非ず。 「頑張れよ、九龍」 俺ができることを見つけることから、俺は始めないといけないらしい。 end