人間が出す分泌物に甘さを感じさせる成分が。 多量に含まれている、という記述がどこかにされていた記憶はないのだけれども。 君の味は甘くて切ない 「君は甘いね」 「……そうかな」 「甘いよ」 はっきり言って僕はお荷物だと自覚しているのだけれど。 そのお荷物を庇う、なんてデメリットでしかないのに。 そんな不利益をこうむってまで、君は。 「僕に当て馬の役が無事に演じきれると思っているのかい?」 「さぁ? 何のことだか」 ぴしゃりと鞭を振るってこのエリアの敵を倒し終え。 もう安全だよ、などと嘯く。 「他にもっと適役がいると思うんだけどな」 「例えば?」 「そうだね……彼が本気で動くとしたら、神鳳君、夕薙君辺りかな」 「面白いチョイスだね、黒塚」 僕は可愛い子を探しながら。 君は指先の感覚に神経を研ぎ澄ませながら。 当の本人が聞いたらきっと面白いだろう他愛もない会話を続ける。 「あの二人を、庇ったのを見たことが無いからね」 ちゃりん、と開錠が済んだ音。 不思議な何か、そして僕には全く興味の無い何かを取り出すと、無造作にポケットに突っ込んで僕に向き直る。 「そうだったかな」 「僕の記憶が確かならね」 庇う必要が無いほど信頼している人間相手なら、彼も少しは気にかけるかもしれない。 「まぁ、女性陣を庇わない君なんて君らしくないけれどね、博士」 「言うね、黒塚」 苦笑らしきものを浮かべると、そのまま歩き出す。 行く先は、確か休憩所のようなもの。 「彼に来て欲しいかい?」 「さぁ」 扉を開けば、安全地帯。 今日の探索で手に入れたものを依頼人に送りつけたり、弾丸の補充をしたり。 僕たちは文字通り休憩をしているけれども、休憩というよりは準備中。 「博士、こっちを向いてくれるかな」 女性陣の誰かと体重まで同じだと嘆いていた小柄な身体を。 背後から抱え込んで、見下ろす。 「黒、塚?」 「お望みどおりに、役目を果たすよ」 見開かれた目に視線を合わせて。 うっすら開かれた唇に。 「……皆守甲太郎、葉佩九龍に関する事となると行動が早い、と」 「黒塚、お前なぁ」 触れたか否か。 どんなアンテナが装備されているのか、背後に庇う姿勢で僕の前に姿を現したのは。 噂をすれば、影。 「演じきれたようだね?」 「……みたいだな」 「皆守君」 「なんだよ」 「九龍君は甘くて切ない味がしたよ」 もうここからは一人でも大丈夫だから先に帰るね、と。 当て馬の列に名を連ねた僕は先に失礼した。 end