腹の探り合いか、それとも。 戦うことよりも 「お前はどうしてここにいる」 今寮の自室に戻った、と奴から報告があったばかりだというのに、この男は。 なぜ、屋敷の俺の部屋の窓枠に腰掛けているのか。 「どうしてって……阿門がくれたんだよ、鍵」 ほら、と差し出すそれは確かに俺が自ら渡したものではあるが。 「真夜中に何のつもりだという意味で言ったんだがな」 「ああ、阿門ってあんまり午前中から校舎内で姿を見ないから夜更かしだと思ってたんだ」 にこりと邪気の無い笑みを浮かべると窓枠から降りる。 衣擦れの音一つさせない、身軽というには明らかに滑らかすぎる身のこなし。 「どこかの誰かと一緒にしないで貰おうか」 「まぁまぁ。今度からはもう少し早く来るからさ」 足音も立てずに歩き、俺のすぐ目の前まで来て止まる。 闇夜にも光を反射する目は黒ではなく。 深い青だということに気付く。 「何のようだ、葉佩九龍」 「鍵のお礼」 「そんなものは必要ない」 「いや、建前が。本音はさ、一回阿門と転校生とかそういうの関係無しに話してみたいな、と」 「それは構わんが」 「でも、今日はもう遅すぎたみたいだから出直すよ」 一歩引き下がるのと同時に。 サイドボードの上で携帯がぶるりと一度震えた。 ……今頃になって隣の部屋がもぬけの殻だと気付いた奴からのメールに違いない。 「俺は構わないが?」 「いやいや。その様子じゃもう寝るところだったんだろ? 寝るときは髪の毛下ろすんだな」 雰囲気が違ったから入ってきたときはびっくりしたよ、と。 爪先立ちをして俺の髪に手を伸ばす。 それを許す、俺ではない。 「いつかあんたとも戦うのかな?」 「それまでお前が生きていれば、の話だ」 「戦うよりも一緒に潜りたいな」 「戯言を」 「本気だよ?」 伸ばしてきた手を掴もうとすれば、ぎりぎりで避けられ。 あっという間に窓枠に手をかけている。 「葉佩」 「あんまり俺を甘く見てると、今に後悔するよ」 「どう後悔すると?」 月影を背に薄く笑みを浮かべ。 「友達になっておけば良かったって」 「……考えておこう」 ひらりと舞って、夜の闇に溶けていく。 その背中を見送ってから、携帯を開いた。 メールではなく、電話で呼び出す。 「皆守」 『……何だよ』 「今転校生が寮に戻った」 『何? おい、お前どうして』 反論を遮って電話を切り、バイブレーターもオフにして放り投げる。 本来の役目を忘れようと足掻いている監視役には、良い薬だ。 「次に姿を見せたときには茶の一杯でも用意してやれ、厳十郎」 「承知いたしました」 奴と友として語り合ったら、夜などすぐに明けるだろう。 end