あまり、会話を交わしたことはなかったのだけれど。 ありがとうと呟いたけど 「龍麻お、にいちゃん。どうして、ここに」 「うん? ああ、なんかお前と間違われたみたいだよ。もう全然言葉も通じなくて」 ふわりと微笑むその人と俺の顔はどこか似ているのだと、皆守は言っていた。 ……俺はこの人みたいに綺麗じゃない。 今も、汚い気持ちで胸の中がいっぱいだ。 「これはお前のものなのに、ごめんな」 「ちが、そんなつもりじゃ」 「ここはお前の場所だろ。奪ったみたいであんまり気分が良くなかったんだよ、俺は」 「……お兄ちゃん」 「だからお前が不快になるのは当たり前。そんな顔するな、九龍」 伸ばされた手が、髪の毛をかき混ぜる。 ……きっとこの人の方がたくさん。 「でもって聞き耳立てるのってどうなんだ、少年」 「え」 「お前がそんな顔してると俺が大変なんだ」 すっと立ち上がって、龍麻お兄ちゃんがドアを開けた、その向こう側。 こっちを見ないで手招きするから、首を傾げながらも指示に従えば。 「……皆守?」 「入らなくて良いからこいつよろしくな」 「え」 「悪いな、俺の部屋挟んで向こう側で。存分に可愛がってくれ。但し傷は付けないように」 「言われなくてもそうする」 「え」 「何かされそうになったら躊躇わずに叫べよ、九龍」 「おい、あんた」 とん、と背中を押されたと思ったら皆守に抱きとめられていて。 振り向く前にドアが閉められてかちゃりと鍵がかかる音までした。 え、なにが、どうなって。 「……似てるのは顔の雰囲気だけだな」 「そう? あ、えと皆守」 「ここじゃ目立つ。こっち来い」 抱え込まれたまま皆守の部屋に押し込まれて、もう、何がなんだか分からない。 「お前が、宝探し屋なんだろうが」 「……うん」 「俺はお前だから手伝ってやるんだからな。そこのところ、ちゃんと分かっておけ」 さっきお兄ちゃんがしてくれたのとはちょっと違うけれど。 また、髪の毛をかき混ぜられた。 ふわりと漂うラベンダーの香り。 「……ありがとう、皆守」 見上げたその顔は何か言いたそうだったけれども、ふん、と鼻を鳴らされただけで。 まぶたが落ちそうになるまで、一言も言葉は交わさなかった。 end