不幸なんて、ものじゃない。 至上最悪の1日 地震で、顔のすぐ横に目覚まし時計が落ちてきた。 目覚まし時計から殺気を感じたのは初めてだった。 急に冴えた頭で被害状況を確認しようとした。 眼鏡が、形をなくしていた。 仕方が無いので予備の眼鏡をかけていった。 煩い女どもに騒がれるし、散々だった。 訳をしてあったのに、そのノートを忘れた。 苛立ち紛れに握ったシャープペンが折れて指先から血が流れた。 結構傷が深くて保健室に行ったら気に食わない男がベッドを占領していた。 昼飯を食おうと思ったら、財布を忘れた。 尊敬以上の念を抱いているセンパイが俺に余ったからあげる、と焼きそばパンとサンドウィッチとパック牛乳をくれた。 舞い上がりそうになったら気に食わない男が横から湧いて出てきてセンパイを学食に誘っていった。 物凄く当たり前に腰を抱いていることに対して抗議をしようとしたら目で殺されそうになった。 5時間目と6時間目の間の休み時間。 言い損ねた礼を言おうと教室に向かえば、屋上に行ったと言われた。 多分次の授業も出ないつもりだろうという情報を得て、サボる気満々で屋上に向かった。 扉のノブに、手をかけた瞬間。 「甲、学校の中は嫌だって言っただろ」 「二時間連続で俺のサボリに付き合うってことは、そういうことだと思っていたんだが?」 「ふざけんな」 「ふざけてるのはお前だろ、九龍」 「俺は外でやる趣味は無い」 「ほぉ」 「な、なんだよ」 「なら屋内なら異論は無い、と。そういうことだな」 嫌な会話だと思った。 すぐにでも立ち去るべきだと警告が頭の中で鳴り響いた。 「ちょ、甲! 離せ! おーろーせー」 「誰が離すか」 慌てて離した瞬間に扉は開き。 「……立ち聞きとは良い趣味だな」 さも楽しそうに笑った男は。 「と、凍也」 泣きそうな顔のセンパイを横抱きにし。 「またな、夷澤」 凍りついた俺を見下して、去っていった。 生徒会役員の呼び出しの放送が流れるまで、俺はそこに立ち尽くしていた。 「遅れるとは良い度胸ですね、夷澤」 「金魚がお腹を空かしてるわよ、夷澤」 「……皆守はどうした、補佐」 生徒会室に行ったら行ったで嫌味しか言われないし。 今頃センパイは、あの男に……。 「何で俺ばっかりこんな目に!」 「犬だからでしょう」 「犬だからね」 こいつら一刻も早く卒業しやがれ、と心の底から思った。 史上最悪の、一日。 end