本日も晴天なり。 西浦ーぜはいつも仲良し。 天気が良い日は屋上で日光浴をしつつお弁当を広げるなんてこともそう珍しくは無い。 ちなみに今日の面子は三橋、田島、泉の九組トリオと阿部、花井、水谷の七組トリオと俺。 「三橋、田島、ぼろぼろ零すな! もっと落ち着いて食え!!」 見た目の割りに良く食べる我らがエースと万年欠食児童の世話を焼くこれまた我らがキャプテンは苦労性で心配性。 放っておけば良いのにそれがまた更なるストレスを引き起こすって言うんだから本物の苦労性だ。 花井の声にわたわたと慌てる三橋が喉に昼飯を詰まらせれば、甲斐甲斐しく飲み物を渡して世話を焼き。 田島の魔の手から弁当を守りつつ自分の食事もしなくてはならない。 密かに「お母さん」と呼ばれていてそれが野球部以外の生徒たちの間でも通じていると知ったらまた凹むのだろうか。 俺だってたまにお母さんと話しかけそうになる。 「ほんっとうによく食うよな、三橋」 「あんだけ食ってんのにどうして細いままなんだろうな」 お母さんの奮闘を見守りつつも自分のペースを崩さずに食事を続けるのは水谷と泉。 昼飯くらいはのんびり食わせてくれ、とは水谷の談であり。 昼飯のときくらいは二人の面倒を見るのは勘弁してくれ、とは泉の談だった気がする。 「阿部、唸るくらいなら自分で世話焼けば? 花井だって少しは楽になると思うよ?」 「ああ?」 「花井だって落ち着いて飯食いたいだろってこと。三橋引き受けてあげなよ」 甲斐甲斐しい花井と世話を焼かれている三橋を見て。 ひたすら不満。ただ不満。物凄く不満。 そんなオーラを発しているのは阿部で、そのオーラをあっさり無視したくても無視できないのが水谷で、遮断する技を身につけたのが俺と泉。 どうしてこんなに分かりやすいのに素直じゃないんだろうか、うちのキャッチャーは。 「俺が三橋の世話をしても良いんだったら無理にとは言わないけど」 腰を浮かしかけると、慌てて三橋の隣まで移動してどかりと腰を下ろす。 その性急な行動にびっくりした三橋はやっぱりパンを詰まらせてじたばたともがく。 「はい、これ飲みなよ」 にっこり笑ってペットボトルを差し出すと、一瞬躊躇って、でも大事そうに両手で受け取ってごくごくと飲む。 「あ りがとっ」 「いえいえ。どういたしまして」 少し軽くなったペットボトルを受け取りながら、ちらりと阿部を見ると凍り付いている。 まぁ、自業自得でしょ? 「栄口、くんは、いい ひと!」 「そう? あんまり慌てて食べると消化にも良くないから気をつけようね」 ふわふわした頭を撫でながら注意を促すと嬉しそうに笑った。 可愛いよね、三橋。 「栄口だけずりーぞ! 俺もっ!!」 がしがしと乱暴に髪の毛をかき混ぜる田島に、うひゃ、と驚きつつもされるがままの三橋。 阿部の解凍が始まったのか、花井の顔色が蒼くなっていく。 そういえばお母さんの割に阿部シャットアウト法を身につけていなかった。 「田島!」 「なんだよ阿部。お前もしたいの?」 ほれ、と突き出された三橋に躊躇いつつも阿部が手を伸ばそうとしたその瞬間。 「なーんてな! お前そういうキャラじゃないもんな!」 寸前で再び三橋は田島の腕の中へ。 花井の顔は土気色。 既に行動を開始した泉は何事も無かったかのように水谷を置き去りにすると田島と三橋の間に入っていく。 勿論顔は阿部からしっかり逸らして。 「あ、阿部。ほら、また、チャンスなんていっぱいあるだろうしさ? 俺たち皆、野球部じゃん! な!」 自ら墓穴に飛び込んでいった勇者は水谷。自覚が無い勇者は地雷を踏むのが特技だ。 阿部のターゲットが水谷に固定された瞬間に花井は三橋たちのほうへ凄まじい勢いで避難した。 俺もその後についていって三橋の情操教育のために両耳を塞いであげる。 「チャンス、だと?」 「そう。あ、俺も撫でたことあるから阿部だったらもう何百回でも」 「クソレフトの分際でかー!」 「ぎゃーっ!」 水谷の断末魔の悲鳴が屋上に響き渡り終えてから、俺はそっと両手を外した。 「阿部君と、水谷君って、仲 良いよね」 「俺と三橋も仲良いよね」 「う うん!」 嬉しそうな笑顔の三橋と俺。 三橋の笑顔に和む田島と泉と花井。 後二人は知らない。 「今日も平和だな」 お母さんというよりは中間管理職のお父さんのような花井のその発言を否定もせず肯定もせず。 今日も西浦高校公式野球部は平和だった。