So sweet 01 チョコレート 手のひらでは溶けません。口の中で蕩けます。 が、あれのキャッチコピーだった気がする。 正直、あまり身体には良くなさそうな色とりどりの粒たち。 それを一粒ずつ大事そうに口の中に放り込んではにんまり。 かり、と砂糖のコーティングをかじる音と幸せそうな笑顔。 それが隣で繰り返されている。 幸せという言葉を具体化したのが今の三橋だ。きっと。 「泉君も、食べる?」 色素の少ない大きな目と目が合った、と。 思ってから数秒後、遠慮がちに袋が差し出された。 食い物至上主義、というか。 食欲魔人の三橋が俺に食い物を差し出している。 珍しい。珍しいというか、俺はそんなに物欲しそうにしていただろうか。 「良いよ、全部食いな」 「そ、そう?」 「てかそれお前のだろ。良いから食いなよ」 好意をむげにするというよりも。 幸せそうに食ってる三橋を見てる方が幸せだ、なんて。 ……それこそチョコレートみたいに甘いことを思いつつ、三橋の手のひらの上にざらざらと載せる。 黄色、青、赤、緑、オレンジ。 きょとんとして首を傾げている三橋に笑いかけて。 一つ摘み上げて口の中に放り込んでやる。 気分は餌付けしてる親鳥。 「親鳥はそんなニヤニヤしながら餌付けしねぇだろうよ」 「うっさい馬鹿浜田」 「あ、ハマちゃん、も、食べる?」 「良いよ。それより田島が帰ってくる前に食っちゃわないと食われちまうぞ」 くしゃくしゃと柔らかい三橋の髪の毛を撫でる浜田の指摘どおり、それはこっちに近付いてきていた。 けたたましい足音。小さな笑い声がいくつか。 慣れたもんで、三橋の手から袋をちょっと拝借。 浜田に向かって手を出すと輪ゴム。 くるくると口を閉じて、鞄の中に突っ込んでやる。証拠隠滅。 しかし侮る無かれ野生児を。 「たっだいまーって、あれ? 誰かチョコ食ってた?」 「どこ見てんだよ田島。ごみも何も無いだろ」 「そうそう。腹減りすぎて鼻までおかしくなったか?」 「そんなこと無いって! これは絶対チョコだもんよ!」 目が輝いた、その瞬間。 田島の目は三橋に釘付けになった。 正しくは、三橋の口元の、茶色いそれに。 「みーっけ!!」 「「田島!」」 「う お!?」 蛇に睨まれた蛙状態の三橋は動くことも叶わず。 俺ら凡人が天才田島を止められるはずも無く。 「やっぱチョコ食ってたんじゃんか」 阿部が9組じゃなくて良かった、とか。 花井ほど繊細じゃなくて良かった、とか。 舐められただけで良かったな、とか。 どれも今ひとつ凍りついたままの三橋にかけるには相応しい言葉とは思えず、とりあえず撫でておく。 「で、俺の分は?」 「「今ので十分釣りが出るわ!」」 「う お……」 悲しいかなこれが9組の現状だ。