100個で1組のお題 映画100 001:サクリファイス 血に飢えた獣。 愛を知らない哀しい獣。 「お前が新しい贄か」 異形だけが具え得る金色の双眸に湛えられるのは一切の拒否。 「随分と不味そうだな。おい、名前は」 鋭く尖った犬歯を覗かせれば、震え上がらぬ者はない。 絶対夜の支配者。 血路王と呼ばれる、崇高な吸血鬼の中でも最高位の位にある。 浮世離れした美貌が示すのは圧倒的な力。 しかし贄は長い布に覆われた顔を上げることはおろか叫び声一つ上げない。 「いい加減にしろ。俺は気が長くはないんだ」 一瞬にして鋭く伸びた爪で首の薄皮を辿れば。 白い首には赤い筋が絡みつく。 無防備に晒されたそこに噛みつけば、ことは全て終わる。 渇きを癒し、甘露を飲み干したあとのそれには意味がない。 そうやって長らえてきた。 これからもそうして独り永いときを生きていく。 「絶対、夜の、支配者」 不意に紡がれたのは、常であれば酷く忌み嫌う響きが込められるそれであったはずなのに。 ともすれば聞き漏らしてしまうほど弱々しい声音には、嫌悪はなく。 畏怖すら、かけらも存在しなかった。 「俺、は、貴方を、封じに、来ました」 ばさりと落ちた布の中から現れたのは、稚い子供。 血が滴った首の下には、銀鎖が光り、忌まわしいアレの姿が見えた。 「お前みたいなガキに俺が封じられると思ってんのか?」 「俺、以外には、できま、せん」 「随分な自信じゃねぇか」 「俺を、覚えて、ません、か?」 溶けそうなほど甘い色彩が闇色を見、逸らされた。 こんな極上の獲物をその場で生け捕らずにみすみす逃すほど甘くはない。 肌に彩を添える赤から漂う香気はこれが穢れを知らない無垢な獲物であることを語る。 極上の一品だ。 忘れることができるような代物では、ない。 「覚えてないな」 あの柔肌を突き破った瞬間、口の中いっぱいに広がるだろう味を想像して舌なめずりをする。 だが、そうするにはあまりにもあの銀鎖が、その先に付けられているモノが邪魔だ。 「……俺は、貴方の餌じゃ、ありま、せん」 「食う前に血を流させるのは趣味じゃねぇんだけどな」 「食べられ、ません」 「上等だ」 今、命をかけた対決が始まる!