100個で1組のお題 映画100 002:スウィート・ムービー なんで声をかけちゃったんだかは、正直分からない。 大学のサークルの。 自主制作映画に。 というかコンペに出すショート・ムービーの。 主役を演じてくれ、なんて。 それも。 「あ、あの」 「あんま硬くなんないで良いよ。てか、笑って?」 誰もが振り返るような美少女じゃあ、ない。 お色気むんむんの美女でもない。 絶世の美少年でもない。 抱かれたい! って感じの超美形でもない。 でも。 「す、ごい、きれい!」 「でしょ? もーさー、大変だったんだよ、こーんな満開の桜探すの」 「で、も、俺、どうすれば」 「桜眺めててくれれば良いよ」 「見る、だけ?」 「そ。桜の次はたんぽぽで、その次はつつじかな。んで紫陽花と朝顔とひまわり」 「お花、ばっか、だね」 「だって花の中にいる三橋可愛いから」 ふわふわでほえほえで可愛い。 「水谷君は、かっこ、良い、よ」 「はは、お世辞でもありがとー」 「ちがっ」 「え?」 「「……」」 だから。 過ぎてゆくたくさんの季節を君と一緒に。 撮って、おきたかったんだ。 「……デジカメじゃなくって、良かったよ」 古い手法に拘って。 そりゃ編集作業はあっちの方が楽なんだけど。 たくさん君がいた記憶を焼き付けておきたくて。 「……三橋にも、届くかな」 もう必要ないたくさんのフィルムを焼いた煙は、高く空へと上っていった。