100個で1組のお題 映画100 005:パンドラの箱 それを開けてしまったとき、世界にはありとあらゆる災禍が起きるようになる種がばら撒かれる。 残されるのは、僅かな希望だけ。 見出すのは難しく、儚く。 けれども全ての根源となる、希望だけ。 「じゃあ何ですか? 俺はこいつと一緒にその災禍の種を集めなきゃならないっていうんですか?」 「まぁ、そういうことになるな」 「冗談じゃない」 当代のパンドラボックスの管理者は俺ではない。 俺の目の前でふんぞり返っているこの小憎たらしい上司だ。 開けてしまったのはこの人の治世を脅かそうとするどこかの誰か。 災禍の種は世界中に飛び散り、残されたのは。 「こいつがいれば大丈夫だって。な、レン」 希望である、この弱々しい奴だけ。 「上司である俺の失態の尻拭いをすんのは部下であるお前の役目だろ、タカヤ」 「こんなおどおどしてんの連れてたら仕事ができません」 「おどおどしてんのはお前が怖い顔してっからじゃん。俺にはちょっとだけだけど笑うもんよ」 「……そういう話をしてんじゃないだろうが!」 「希望の化身を連れて災禍の種を全部拾い集めるまで帰ってくんな。期限は無期限。良いな、阿部隆也」 王命は、俺に下された。 「で? 災禍の種の形なんて俺は知らないんだけど、お前は知ってんの?」 「……形、は、知りま、せん」 「じゃどうやって探せってんだよ!」 苛立つ俺とびくつく希望。 はっきり言ってきちんとした会話が成立したのは片手で足りるほどだけだ。 「でも、見え、ます」 「見える?」 「ここ、に」 ぺたりとてのひらを当てたのは、胸。 ……ちょっと待て。 「災禍の種ってのは、人に撒かれるものなのかよ」 「嫌な、思いは、人にしか、宿りま、せん」 「天災とかは?」 「その、災害が、起きないと、分かりま、せん」 「それじゃ意味ないだろ」 「っ」 「わりぃ、お前に怒ってるんじゃねぇんだ」 つまり人が持つ負の感情が災禍の種だってことか? だとしたらそんなものを全て拾い集めるなんてことは不可能だ。 「全部なんて集まるのかよ」 「……集め、ます」 「何をそんなにムキになってんの?」 「だって、俺は、希望、だから」 ひやりとした手が俺の胸にそっと触れて、離れた。 てのひらの上には黒くて丸い塊が二つある。 「猜疑、と失望、です」 「一人に一つとかそういうものじゃないんだな」 「同じ名前の、ものは、どれか、一つ」 「じゃあ俺が全部を抱え込めば済む話なんじゃないの?」 「そんな、こと、したら! あなたが、壊れ、ちゃう」 目から零れた涙が種に落ちると、種は光の玉になって飛んでいった。 「探しに、行こう?」 「そうだな」 果てのない災禍の種を。 それでも、かき集めて。 光へ、希望へ変えるために。