100個で1組のお題 映画100 006:ラヴソング こんな大層な恋愛をした経験はない。 それが、主題歌を作ってくれというオファーを受けたときの最初の俺の感想だ。 前世の記憶を持った恋人同士が生まれ変わってまた自分の運命の相手を見つける。 なんて恋愛をしたことがある奴がいたらお目にかかってみたい、とも。 思ったが、是非とも俺に歌って欲しいらしい。 それも前世だとか生まれ変わりだとかいうキーワードは一切入れてくれるなという奇妙な注文つきだ。 熱烈な仕事の依頼というのはありがたいのだが、断るにも骨が折れる。 「さて、どうしたもんか」 俺よりもこの映画の主題歌に向いている奴はいるだろうに。 たとえば……。 「そっか」 この際事務所だのそういう話は後で押し通してもらえば済む話。 あいつが作った曲じゃないと歌わないと駄々を捏ねてみればいい。 「……お久し、ぶり、です」 「久しぶりだな、廉。今日はあのボディーガードは?」 「いますよ。すいませんけど」 本来の職業はピアニスト。 しかしある事件をきっかけに今は公演を控えて姿を隠し。 ひたすら作曲活動をしているアーティスト。 三橋廉。 「花井、くん」 「2時間が限界ですんで。三橋も」 「う、ん。ありがとう」 その護衛というか、なんというか。 花井何とかっていう、坊主頭なのにそんなにいかつい感じはしない奴。 廉が一番信頼してる人間で、心を許してる奴かもしれない人間。 「じゃ、始めるか」 花井は仕事をしている間は席を外しているから今は二人きり。 仕事をしているから手も足も出せないし出さないが、二人きり。 これだって他の人間は得ることがほぼできない状況なんだから、満足するとしよう。 「廉」 「は、い」 「この歌詞どう思う?」 「幸せ、そう、です」 「そうか」 お前を思って書いたんだ、なんて言ったら。 どんな顔をするんだか楽しみだ。 ……そうか。 「三橋、この間の映画のパンフレットが届いてるぞ」 「えい、が?」 「高瀬さんに曲を作った映画の、だ」 ―主題歌は切ない片想いをテーマにした歌詞ですが、これは実体験を元に書かれたんですか? ええ。ただいま絶賛片思い中なので(笑)