100個で1組のお題 映画100 007:憂鬱な楽園 世界統一暦158年。 かつて日本と呼ばれた国は10に分けられ、それぞれが独立した政治を行っていた。 関東と呼ばれていた地域はポイントエイスと呼ばれ、その住民はある特殊性を帯びていた。 「防御シールドを破って、誰か入ってきたみたいだな」 「俺のシールドが破られたって? 冗談きついぞ」 常人には持ちえない能力を持つゆえに生物兵器として扱われ。 自分たちを守るために、常人たちが立ち入れぬようにエリア全体を包む防御シールドを。 その能力で張り巡らせていた。 「お、れ、行って、きま、す」 「廉、無茶すんな」 「で、も、侵入者、は、俺、が」 情緒不安定な発火能力者。 自らを傷付ける相手だと認識した途端、自己防衛本能により相手を燃やす。 「へぇ、ここが幻のポイントエイスか。思ってたよりも砂漠化が進んでるんだな」 フリーのライター仲間が今際の際に送ってきた画像に映っていた幻のエリア。 フリーランスのライターの仲間内で話題になったのは一瞬だけ映っていた人の姿。 拡大に拡大を重ね、鮮明な画像に直したそれには、紅蓮の炎に包まれた少年の姿が映っていた。 「熾天使なんて洒落た名前を付けられてるなんて、知らないんだろうな」 あると噂されていた防御シールドの存在を自分は感知し得なかった。 阻まれること無く、踏み出したその先に進むことができた。 理由は、まぁ、常々抱えていた自分の特異さにあるのだろうと予想しているのだが。 「出て行って、下さい」 「あ、セラフだ」 「ぅ、え?」 防塵用と化していた眼鏡のレンズをごしごしと乱暴に拭ってかけ直す。 映像で何度も見た少年が、いつの間にか目の前に姿を現していた。 「驚かしてすみません。ええと、俺はフリーのライターで秋ま……ちょっと!」 「出て、行って……!」 ゆらりと足元から立ち上がる陽炎。 確実に姿を現す、火の玉。 「自己紹介くらいさせてもらえませんか。俺は秋丸恭平。フリーのライターで」 警告代わりに放たれた火の玉をてのひらで握り潰す。 予想していた通り痛みは無く、熱も感じない。 「どうし、て」 「俺と来れば分かるよ」 混乱から放たれた炎も、俺を傷付けることはできない。 まぁ、借り物のカメラは溶けてしまったからもう使い物にならないだろうけれど。 眼鏡のフレームも溶けて、砂に埋もれたレンズを拾い上げた。 間違いなく彼は俺に恐怖している。 そして俺は彼を恐怖の対象と認識していない。 「君の名前は?」 声にならない叫びと共に放たれた炎の渦を薙ぎ払って、小柄な身体を抱き寄せた。 途端にずるりと身体から力が抜け、慌てて抱き上げれば。 白い顔に幾筋もの涙の跡。 「ごめ……なさ……な、さん」 陽炎の向こうの城塞に向かって軽く手を振り。 本来の目的を果たした俺はポイントエイスとの境界と思しきところからするりと退去した。 侵略も取材も意味はない。 あの映像に残されていたこの少年に会いたいだけだったから。