100個で1組のお題 映画100 008:三つ数えろ 音声魔術、という魔術がこの世には存在する。 声を媒体にした魔術で、有効範囲はその声が届くところまで。 その魔術の構成をイメージした言葉が即ち呪文となる。 声がでかけりゃ範囲は広がるが、相手に気付かれないように術を出したいときには瑕になる。 声が小さければ役に立たないことも多いが隠密としては有能になるかもしれない。 声が小さい代償として体術を会得しておけば、万が一声を失う事態に直面しても生き延びることができる。 「相変わらずうちの教室には上位者ばっかりいるんだなー」 「あー、テストの結果見たんか?」 「そーなのよー。もう西広がダントツじゃん? で花井と篠岡と阿部で栄口じゃん。さり気なーく巣山も上にいるんだよね」 「お前筆記はずたぼろだもんな、水谷」 「……泉もね」 百枝教室は学院の中では珍しく、生徒の血統を重視しないことから他教室より劣る、と外部からは思われている。 その悪印象を払拭するために生徒は必死、ではない。 元々教官が王都で武官を務めていたようなツワモノなのだ。 その授業についていっているだけのことであって、見栄だとか体裁だとかを気にするでもなく。 実にのびのびと、けれど着実に力を伸ばしている。 ただ、それだけのこと。 「実技結果出てた!」 「おう、どうだった?」 「榛名と高瀬が同率一位! んで俺と叶が三位!」 「さすが田島」 音声魔術や魔術の歴史、大陸の歴史など様々な分野の知識を求められる筆記試験。 魔術の威力と基礎体力などを求められる実技試験。 そして。 「制御の結果990点だって、三橋」 「うわー、さっすが三橋」 自らの持つ力をどれだけ制御し得るかが求められる制御試験。 この三つが生徒の力を把握するために学院が課す試験である。 「で? その当人はどうしたんだよ」 「あ、阿部」 「お前ら同室だろ。三橋はどうしたんだよ」 「……それが」 生徒は四人で一人部屋を与えられ、特定の役職を与えられると個室が与えられる。 栄口、泉、田島、三橋が同室。 花井、水谷、阿部、巣山が同室。 この二つの部屋は隣り合っていて更に隠し通路で繋がっている。 「三橋君なら新しい魔術の構成を考えるって高瀬さんたちに連れて行かれたよ?」 「うわちゃー、言っちゃったよ篠岡」 「え? あ、阿部君」 「なぁその『たち』の中にはどいつが含まれてるわけ?」 百枝教室の生徒たちの絆は強く(?) 特に攻撃用魔術に秀でる阿部と回復用魔術に秀でる三橋とのそれは周囲の人間が要らぬ心配をしたくなるほど。 「百枝教室の生徒が集団で何やってるのかな?」 「先生! 三橋が」 「三橋君なら高瀬君たちが面白いことやりたいっていうからお出かけしてるよ。で、君たちは何をしてるのかな?」 ぎりぎりと歯噛みをする阿部の前に現れたのは。 「お、タカヤ発見! レン、早速さっきのやってみようぜ」 「榛名、さん」 「対人用の魔術を構成してたの?」 「あ、百枝先生こんにちは。そうなんですよ、実はちょーっと面白いこと考えまして」 「こんにちは、高瀬君。三橋君の制御があれば怪我はないと思うけど、何をするのかな?」 「「それは見てのお楽しみ!」」 実技一位コンビと、制御一位の三橋。 「「「三つ数えろ」」」 びりりと空気が震え、魔術が発動したのが分かった。 雰囲気に押され、阿部は口を開いた。 「一、二、三……ってぇ」 ぽとり、と阿部の頭上に降ってきたのは……ひよこのおもちゃ。 「やった、空間転移できたじゃん!」 「次はぬいぐるみサイズに挑戦だな」 「榛名君が空間転移で高瀬君が物質の再構築、三橋君が分解の制御とその他諸々の制御ね」 「は、い」 「よくできました。三人には花丸を上げましょう」 にこりと笑う教師と魔術が成功して喜ぶ三人。 そして。 「みーはーしー」 「ふぇ」 「そいつらと遊んでるくらいなら筆記の勉強をしろ!」 「ひぃっ」 仲間はずれにされたから拗ねてたんだよな、と田島に断言されてしまった阿部がいたとかいないとか。