100個で1組のお題 映画100 010:その男、凶暴につき 屋敷に地下室があると知ったのはつい最近のこと。 乳兄弟たちと一緒に探検をしていたときに、風の通り道を見つけ。 手首がようやく通るくらいの穴に柵が付けられたそこから。 覗き込んだ暗闇の中から、ぎらりと光る一対の双眸が自分を見た気が、した。 「見取り図には、載ってないな」 「隠し部屋だ! もっかい探検しようぜ!」 「馬鹿。お館様に見つかってみろ、怒られるのは廉だぞ」 「そっかー。でもさ、気になるじゃん。な?」 「う、ん」 「おーい、おやつできたぞー」 ひそひそ話は途中で打ち切られ、非常食を持って。 「なぁ、ここだけ音が違う」 「ほんと、だ!」 「お前らなぁ、いい加減に」 しろ、と泉が言おうとした瞬間、壁が抜けた。 否、人が這いつくばってようやく通れそうなほどの大きさの空洞が生まれた。 明らかに、隠し通路。 「俺先頭な!」 「……ああもう、廉、お前は真ん中」 「う、ん!」 開いた穴はとりあえず座布団で隠しておいて、中に入る。 埃の臭いが鼻をつくが、黴の臭いはしない。 あの風穴が換気の役割も果たしていたのだろうか。 「出口だ。廉、そこでちょっと止まってろ」 ひらりと姿を消した田島のものらしき足音は随分と下の方でした。 泉を振り向くにも振り向けないこの状況下では、田島の声を待つしかない。 「頭から落ちてきても平気だぞー」 「ほん、と?」 「俺が受け止めっからさ! ゲンミツに!」 「だとよ。ほら、行きな」 意を決して頭から突っ込めば、果たして廉は田島の腕の中にいた。 よっというかけ声と共に泉も下りてくる。 壁にかかっている縄梯子は帰りにしか使えないような脆さ。 「も、大丈夫」 「そっか」 「そっか、じゃねぇよ。とっとと下ろせ」 ちぇーという田島から下りた爪先でちゃりんと音がした。 拾い上げれば、鍵のように見える。 「あれの鍵か?」 「田島、中覗けるか?」 「おうよ」 外から差す光はあるが薄暗い扉の奥に何があるのか良くは見えない。 が、生きているものの気配は感じなかった、と田島は胸を張る。 「開けてみよーぜ」 「ま、生き物がいないなら平気だろ」 そもそも。 生き物の気配を全く感じなかった時点で疑うべきだったのだ。 かちゃり、と鍵を開けぎぎぎと扉を開いた中に。 「よう」 ぎらりと光る一対の目は、確かに先ほど廉が見たものだろう。 けれど田島は生きているものの気配はない、と言った。 これが意味するのは。 「「廉、下がってろ」」 「へぇ、そいつレンってーの?」 封じられていた何者か、ということになる。 探究心が仇となったか。 「まぁ、そう怖い顔すんなって」 「廉、先戻って……おい!」 引き止めるよりも先に、驚くほどの俊敏さで廉が生き物でないモノに近付いた。 と思いきや、その足元にぺたりと座り込む。 「これ、が、貴方、です、か?」 「お、大正解。一目で俺の正体見破った奴って久しぶりだな」 朱塗りの鞘に収められた一振りの刀。 「なんだ、お前」 「刀」 「の割に刀身ないぞ?」 「んなっ! お前勝手に触るなよ小猿!」 「俺小猿じゃねぇもん!」 「あー、確かにないな。廉、これどうする?」 「お前も! 俺は俺が認めた奴にしか俺に触らせないんだからな!」 柄と鍔まではあるが、その先にあるはずの刃はどこにもない。 それなのに鞘から柄が外れることはない。 奇妙な刀に皆が皆興味深々だ。 「てかお前なんでこんなとこにいんの?」 「……怒られたから」 「は?」 「子孫にお前の正体を一発で見破る奴が出るまで出ちゃ駄目だって、怒られたんだよ!」 「出たらどうすんだ?」 「そいつを守れって。なぁ、お前命狙われてるとかそういうのあんの?」 ぎらりと光っていた双眸は今は廉を試すような色を湛えている。 しかし刀の言葉は今ひとつ廉に実感を齎さない。 「俺、狙われて、る?」 「俺が守ってる」 「俺も守ってる」 「……んじゃ俺も守るわ。よし決定」 柄に埋め込まれていた宝珠を髪を結っていた紐に通し、廉の首にかける。 おかしい、と泉が思ったときには既に。 「名前は?」 「三橋、廉、です」 「うし。お前の命、俺が守る」 しっかりと人の形をした元刀がいた。 腹立たしいことにちゃっかり廉の手の甲に口付けていたりする。 「てめぇっ!」 「なんだよちび。やるか?」 「田島、行くぞ」 「おうよっ!」 戦いの火蓋が切られてしまった。 「ハマ、ちゃん」 「んー、これからおやつは五人分作れば良いのか?」 「う、ん! どして、俺の言いたい、こと」 「それはひ・み・つ」 「浜田キモい」 「うんキモい」 「廉がやったら可愛いけどなー」 ……意外と、なかよしさんのようだけれども。