100個で1組のお題 映画100 011:トラフィック 参加者は皆仮装。 表立って口に出せないパーティが、この会場で催されている。 「あそこの化けもんみたいな羽根飾り付けてんのって、議員のおばちゃんじゃない?」 「その隣は歌舞伎役者だな」 「さっきサッカー選手見ちゃったよ」 「歌手だろうが役者だろうが、見る奴が見ると分かっちゃうんだけどねえ」 ろくでもない趣味だとは思うけど、トラフィック、俗にいう人身売買のオークションが今日のメインイベント。 前々から目を付けてたある組織が主催するって情報を嗅ぎ付けて。 ボスが顔を出したところを御用だ! ってやる運びになってるんだけど。 「にしても警察の裏をかこうとするにはあまりにお粗末なチェックだったな」 「あら花井さん厳しいお言葉」 「もう既に嵌められてる恐れもあるってことかな」 「栄口までー」 「まあ、退路の確保をしておくに越したことはないかな」 「……えー、浜田それ洒落にならない」 もうどこをどう見ても異様としか言いようの無い雰囲気の中。 会場の客電が落ちて中央の舞台にスポットライトが当たった。 メインイベントの始まり始まりーってか? 「紳士淑女の皆々様、大変お待たせいたしました。これより始めたいと思います」 舞台の後ろから延びる通路を、大きな布で隠されたこれまた大きな箱がゆっくり移動してくる。 「最初の商品はこちら。香港で拾いましたる原石を磨き上げました」 取り払われた布、檻の中で震えていたのは首と足に枷を付けられた10歳くらいの女の子。 「絹のような髪と肌、黒と見紛うばかりに深い青の目、珊瑚のような唇。200から始めます」 客たちの隣にいる代理人たちが次々に値を吊り上げていって、4500。 家が買えるよなー、なんて価値判断をする俺も酷いのかもしれないけれど。 「信じらんねぇな」 「全くだ」 花井と浜田の顔色はよろしくない。 次々に商品が紹介され競り落とされていく場内の熱気と反比例して、俺たちの気分は悪化していく。 「さて次で最後になります。紹介は我らがボスから」 今までとは違う色の布がかけられた大きな箱。 中にいたのは、こう、言っちゃ悪いんだけど。 「……全然色気ないねぇ」 「おい水谷」 「だって今までのは将来有望株とか絶好調だったりしたよ?」 まあ、可愛い方に入るかもしれないけど。 ぶるぶる震えて俯いてるひよこ色の髪の毛。 折れそうに細い身体。 媚びも痴態もなーんにもない、少年。 「この少年をご存知でしょうか」 変わってるなーと思ったのは、首輪も足かせもされていないこと。 それぐらい、だったんだけど。 「水谷、あの子自体に価値があるとかそれ以前の問題だよ」 「どんな?」 さっきまで黙りこくってた栄口が浜田を振り返る。 「浜田、どうする?」 「……どうするもこうするも」 握った拳からは血が流れてる。 ……どゆこと? 「5年ほど前でしょうか、ある巨大な財閥が内部の者の手によって解体させられました」 がちゃりと檻が開いて、ボス自ら少年の手を取って外に出させる。 「阿部、巣山、確保は?」 「「完了」」 「田島、泉、作戦実行」 「「了解」」 傾げていた首を戻して、栄口と浜田を見て。 同じ会場に潜んでいた仲間と連絡を取った花井を見れば。 「細かい話は生き延びてからだ。水谷、スポットライトが落ちたら俺と一緒に撤退」 「ええ?」 「栄口と浜田は田島と泉のフォロー」 「「了解」」 何がなんだか良く分からないけれど。 「あの子連れ出しちゃうの?」 「救出するの間違いだ」 本当に話が全然読めないんだけど。 俺以外の皆は、読めてるみたいで。 これってちょっと疎外感なんだけど! でも。 「俺もフォロー組に回る」 「何?」 「俺が一番王子様って顔じゃない?」 「…………好きにしろ。足手まといにだけはなるなよ」 どこぞのボスの長口上をBGMに。 明かりが消えた瞬間、俺は舞台に向かって駆け出した。