100個で1組のお題 映画100 012:血の魔術師 それは自らの血液を媒介とし発動する魔術。 攻撃、防御、ともに多量の出血を伴うためこれを得手とする術者は限りなく少ない。 しかし、ある一点においてこの魔術以外が用いられることも無い、という両極端な魔術である。 「栄口、血盟にはどれくらい期間が必要だ?」 「お、やっと使い魔にしたい子見つけたの、花井」 「まあ、そんなもんか」 魔術学院で俺は血盟魔術研究学の研究室で助手として働いている。 友人である花井はこの学院を数年前に卒業し、今は政府から仕事を請け負う魔術士として働いている。 「ほら、隠れてないで」 魔術士の使い魔になり得る高位の獣魔は人形を取ることが出来る。 だからよほどのことが無い限り外を出歩くときは人の形を取るの、だが。 「銀狐の、子供?」 「……襟巻きみたいに見えるけどな」 「温かそうで良いねぇ」 花井の首元にがっしりとしがみついて離れない銀の毛並みの子狐。 魔力が安定していないのか、それとも何か別の要因があるのか。 「どこで見つけたの?」 「……田島の畑の罠に引っかかってた」 「随分運命的だね、花井」 喉の辺りを撫でて落ち着けて花井の腕の中に落ち着いた子狐の目は。 毛並みの銀に対し、柔らかな金色。 そういえばところどころ毛並みにも金が混じっている。 「とりあえず人形を取ってもらわないと、どれくらいか分からないよ」 「だよな。……廉」 金色が花井を見て、俺を見て。 そろそろと足元に下りると、淡い光が生まれた。 「廉、君?」 「そう。ほら、これに包まれ」 子供らしい丸みを帯びた手と足がちらりと覗いた、と思ったら。 どこから取り出したのか大きな布を頭から被せて、軽く抱えあげる。 ……手も足も顔も見えないよ、花井。 「清廉の廉。銀狐と金狐のハーフだ」 「いや、そう言われても見えてないからね、俺に」 椅子に座らせると、顔が見えるように布を退かしてくれて。 その目を見ることで、俺はこの子が血盟に耐えられるかどうか。 どの程度の強さの魔術を用いれば良いのかを判断する。 血盟術医、なんて呼ばれることもある。 「本当にまだ子供なんだね。一番下の術をかけて、補助で耳環をつければ一日で十分だと思うよ」 「そうか。でも耳環って」 「痛いだろうね、貫通させちゃうから」 びくっと身体を震わせて再び子狐の姿へ。 ああ、驚かしちゃったんだな。 可愛かったのに、残念。 「栄口」 「そんな目で見ないでよ。耳環がポピュラーなのは花井も知ってるでしょ?」 「そりゃそうだけど」 子狐の頭を優しく撫でながら、一つ提案をする。 「痛くない方法を知ってるのは多分俺だけだと思うんだけど、俺の使い魔になる気は」 「おい、廉」 「……嫌われちゃったかな?」 全然歯は立てられていないけれど、ぱくりと指先を噛まれた。 ……まあ歯が立てられていないわけだから噛まれてもいないのだけれど。 「邪魔したな」 「魔力が安定したら是非人の形で連れてきてくれると嬉しいな」 「そんな危険なこと誰がするか」 廉君を抱えたまま花井は帰っていった。 ……ていうか。 「主従っていうよりも親子だよね、あれじゃ」 それも息子じゃなくて娘の父親。 「阿部に教えてあげようかな」 見た目に反して可愛い物好きで特に狐好きの学者の友人を思い浮かべつつ。 俺はうきうきと電話を手に取った。