100個で1組のお題 映画100 013:太陽の季節 この帝国に『太陽』は一つしかいらない。 「第二夫人のお子の元希様と第一夫人のお子の隆也様、か」 「陛下が出した条件を知っているか?」 「あれだろう? 最も愛すべきものを愛し、最も愛すべきものに愛されるものを皇太子とする、だろう?」 「愛情などどうやって量るものやら」 「どちらに付く?」 「しばらくは様子見だろうな」 嫡出子よりも早く生まれ、幼い頃からその才を遺憾なく発揮してきた庶子の元希。 元希に遅れること一年と半年ほど、常に元希と比較され続けてきた嫡出子の隆也。 平素からあまり仲が良くない二人。 歳を取るごとにその仲の悪さはヒートアップし、敵対派閥同士が二人を焚きつけるのも時間の問題と思われていた。 「十二翼将の娘なんざ貰った日にゃ国を牛耳ろうと考える馬鹿の駒にされるのがオチだよな」 「かといってどこぞの農民の娘を貰うわけにもいかないだろうねえ」 「ったく、思いつく相手を花嫁候補にって考えるのがよくねえんじゃね?」 「じゃどうすんの。平民のふりして探すとでも……ってちょっと榛名! じゃない元希様!」 賢いはずなのにどこか馬鹿、な第一皇子は自主的に城下へと降りてゆき。 「ぜってーに貴族の娘なんかじゃなくって平民の方が良いって!」 「その根拠は?」 「俺が今気になる奴が城下にいるから!」 「おい田島……なあ、あれどうすんの花井、栄口」 「一応阿部……じゃない隆也様を勝たせようとしつつ自分もついでに、みたいな?」 「いや田島のことだから阿部……じゃなくて隆也様がついでだと思うぞ」 「ったく」 部下と友人に恵まれた第二皇子は否応無しに城下へと降りてゆき。 「いらっしゃい、ませ……あ、田島君」 「やほー三橋。元気だったか?」 「昨日も、会った、よ?」 「今日会うのは初めてだもんよ」 「う、ん」 「今日はこの白い花、花束にして」 「は、い」 花屋で目当ての人間を口説いている田島と遭遇した二人。 要するに二人が顔を合わせてしまったわけで。 「タカヤじゃん。こんなとこで何してんだよ」 「あんたこそこんなとこで何してんですか」 「俺を盲目的に愛してくれる子探し」 「あんた馬鹿か」 「うっせーな。良いじゃんかラブラブな皇帝夫妻」 「あんたがなるって決まったわけじゃないんですけど」 「お前ラブラブってキャラじゃねえもん」 部下達がうんざりするような口喧嘩が起きるわけで。 「そうだ花井、胃が痛くなるような極秘情報を一つ教えてあげようか」 「……もう十分痛いぞ?」 「秋丸さんの胃も痛くなるかな」 「俺の胃まで?」 というか一人の部下のせいで残り二人の胃が痛くなるわけでもありますが。 「先代の陛下には何人子供がいたでしょう?」 「四人だろ。今上と皇女殿下がお二人と弟君と」 「実は物凄く歳の離れた殿下がいるんだよ」 「「は?」」 「よっぽどお元気だったんだね、先代。俺たちと歳が変わらない末息子がいらっしゃるんだ」 「……まさか、栄口君」 「そのまさか、なんですよ。あまりにも体裁が悪いっていうんで十二翼将の一人に預けられていた末息子」 「う、嘘だろ」 「預けられていただけだから勿論養子にも何もなっていないんだよ」 だって部下じゃなくて友人なのがいい証拠でしょ? あ、叔父と甥になるのかな、と。 楽しそうに語る部下一人と顔を青ざめさせていく部下二人。 皇子二人の口論がヒートアップしていく中。 「できまし、た!」 「さんきゅーな。いくら?」 「3500円、です」 「ん。あ、栄口ー、ちょっとちょっと」 「何? ああ、気障なことするね田島。いや、皇弟殿下」 「なあ、皇帝さんの言ってたあれって俺も関係あんのかな」 「さあ? でも良いんじゃない?」 自分の買った花束を店員にプレゼントするという行為をあっさりとやってのけた田島と。 嬉しそうに頬を染める花屋の店員こと三橋を交互に眺めやって。 「あの二人のどっちかが太陽になるより似合ってそうだし」 さてどうやって宰相を引き摺り下ろそうかと画策する栄口だった。