100個で1組のお題 映画100 015:勝手にしやがれ 優勝者には金一封、などというけち臭いことは言わない。 望むものを何でも。 名誉でも美女でも大金でも。 けれど。 ――参加者の命の保障は、しない。 「なあ、あの注意書きってのは嘘じゃなかったんだな」 「何を今更。あ、花井、この先トラップゾーンだって」 「何だそのいかにも危ないですって自己主張は! てかお前はどこで主催者用のマップを手に入れたんだ、栄口」 「蛇の道は蛇っていうでしょ。うーん、先行車がいきなり消えたってことは蟻地獄かな」 「お前何をそんな悠長な」 「大丈夫。もう迂回路の検索は済んだから。さ、花井ここからフルスロットルで直線100キロだよ」 「……密林の中をどう直線で走れってんだ!」 俺たちが、王国の近衛兵だった俺たちがなぜこんなレースに参加してるのか。 話は二ヶ月前に遡る。 「花井、これでようやく廉様をお助けできるかもしれないよ」 「……なんだそりゃ」 「国王主催のイカレレース。優勝者の望みを何でも叶えるってさ」 「そんなバカな話が本当にあるのか?」 「あるんだよ。あの国王だもん。ただし命の保証は無いんだけどね」 近隣の弱小国が蹂躙されないための代償として連れてこられた末王子。 邸宅を一つ与えられたといえば聞こえは良いものの、実質この屋敷に幽閉されている。 比較的年齢が近い、とはいうものの10は軽く離れている俺と栄口が側用人兼護衛として。 その他にも若い兵やら何やらが四六時中遊び相手といえば聞こえが良い監視役を申し付けられている。 「命、賭ける?」 「聞くなよ」 返しきれないほどの絶大な信頼。 十にも満たない子供のそれは戦で家族を失った自分たちの生きる糧になった。 「にしても何が凄いってあの王様だよね」 「全くだ」 「商品に目が眩んだ参加者同士を相打ちにさせて優勝者が出ないようにって、賢いっていうよりも卑怯」 「……どこからか知らないが主催者が血眼になって集めた参加者のデータを持ってきたお前に言われたくはないだろうな」 「そんなのも計算のうちじゃないの? さて花井さん、問題です」 賢君として外交的には名高い国王が賢君たる理由はその策謀にある。 自分の手を汚さずに手に入れたいものを手に入れる。 それを本当にやってしまう人物を俺は他に知らない。 「国王の懐刀がこの先で一つ仕掛けてくるみたいなんだけど、どうする?」 「誰がそんな安い挑発に乗るか」 「でも乗っておくと後は比較的楽にいけるんだけどな」 「……仕掛けられてんのは何だ?」 「何にも無いはずの草原一帯が地雷だらけ」 「避けられる確率は?」 「1%」 「んで? お前らの望みは?」 1%をモノにした結果与えられたのは優勝者の称号。 「廉様を自由にしていただきたい」 「レン……ああ、どっかからの人質のガキか。良いぜ、連れて行け。他には?」 「……特には」 「貴族になりたいとかそういうのねえの? 大富豪にさせろとか」 「ああ、じゃあ俺たちと廉様が生活を維持できる程度の支援をして下さい。監視抜きで」 「……なあ、ほんっとにそんだけ?」 「「はい」」 「お前らみたいのが勝っちゃうんだもんなー。つっまんねーの」 勝手にしやがれ、と俺たちを下がらせた国王が。 廉様を見かけて(笑い話じゃ済まされないことにこの王様は人質の顔を全然覚えていなかった) 若紫計画を発動させようとしたのは、また別の話。