100個で1組のお題 映画100 022:いつも二人で 『鍵』があればアッパーサイドの住人になれる。 アンダーグラウンドからひとつだけ。 上へと伸びる、階段があると言われている建物の扉を開く『鍵』が。 「てか全然想像つかないですよね」 「そうだな」 アンダのスラムで毎日毎日灰色の雲が重く垂れ込めた空を見て。 上、に上ること。 そればかり考えていた。 上にいけば幸せになれる。 でも、どうして? 「……ちょ、何拾ってきちゃったんですか!?」 「道端で蹲ってたんだ。随分冷えていたから、つい」 「つい、って。タケさん、そんな」 「あんまりタケを責めないでやってくれよ、迅」 「そうそう。タケじゃなかったら和己が拾ってきちゃってたって」 道端で人が倒れているのは珍しいことじゃない。 俺だって裏道でぶっ倒れていて。 和さんに拾われて、今、ここにいる。 山さんと慎吾さんとタケさんと準さんは違うけど。 利央も、拾われた一人。 「ふわふわしてる髪の毛が、似てるからって。仕方ないだろ、迅」 小さな猫を拾うんじゃない。 生きていくので精一杯なのに、他人を養う余裕なんてどこにも無い。 自分のことは自分でする。 それができなくちゃ、生きていけない場所なのに。 「俺は、知りませんよ」 手を取ることを、拒否したはずなのに。 「あー、また迅の隣にいる!」 「利央、煩い」 「だって迅とタケさんばっか!」 ふわふわした髪の毛だけは利央と一緒の。 でも色は違うし細っこいのはなぜか俺の隣かタケさんの隣に引っ付いてた。 タケさんに懐くのは分かる。だって拾い主だから。 でも何で俺? 「でっかくて怖いんだろ」 「そんなことないもん!」 全然喋らないから勝手につけた名前がシロ。 慎吾さん命名なのが笑える。 「散歩行くぞー」 命を繋ぐための行為をしている間、誰かしらがシロを連れ出して。 その間にアッパーからの積荷を盗んだり、アッパーの住人を襲撃したりする。 「シロ、お前どこから来たんだ?」 ふるふる首を振るシロが、一回だけ。 アッパーに繋がる扉を指差したことがあった。 「何だ? 今日は皆で散歩か?」 シロがみんなの服の袖を引いて。 連れて行かれたのは、アッパーに繋がる、扉。 「シロ?」 嫌な、感じがする。 視界が白く染まっていく。 薄い背中を突き破るようにして生えてくる、翼。 「シロ、お前」 伸ばした手は手をつかめなくて。 「シロ!」 「さよ、なら」 「ふざけんな!」 初めて聞く声が紡ぐ言葉がそんなのは嫌だ。 「迅」 気付けば、見たことが無い世界。 上、に。 「シロは」 和さんも山さんも慎吾さんもタケさんも準さんも利央も。 いる、のに。 「いるだろ、そこに」 不貞腐れた利央と準さんの視線につられて。 笑ってる和さんと山さんの視線につられて。 相変わらず何考えてるんだか分からない慎吾さんと。 珍しく笑顔のタケさんの、視線の、先。 俺の、膝枕で。 「シ、ロ」 真っ白な服と真っ白な翼。 触れたら、ばさりと落ちてぎょっとしたけど。 「お前、『鍵』だったの、か?」 こくり、と頷いて。 慌てて辺りを見回して。 誰より驚いた顔をして。 「み、んな、い、ます、ね」 ふにゃりと笑ってまた俺の膝枕で眠った。 後から知った話。 『鍵』ってのは、アンダじゃ声が出ないらしい。 んでも、そんな自分に親切にしてくれた人に恩返しをする。 それが、アッパーにいけるってこと。 でも一人分の翼で連れて行けるのは一人が限界で。 だから、きれいなまま残るはずの翼が折れてしまったってこと。 「恋する少年は不機嫌だねぇ」 「ちょ、何言ってるんですか」 「分かってないのは当人ばかりって奴だろう?」 「和さんまで!」 「保護者じゃそこから発展しない、というわけか」 「……タケさん?」 「ずっりーなー、迅」 「何がだよ」 「本当にな」 「準さん、何言ってるんですか?」 俺の膝枕で寝るのが当たり前になってるシロの頭を撫でて。 にっこりと山さんが笑う。 ちょっと、不気味。 「迅、何で『鍵』っていうか分かるかい?」 「は?」 「心の鍵を開くからだ、って昔聞いたな。うん、青春青春」 ……ええじゃあ今のこの状態は俺が生殺しなんじゃないのか?