100個で1組のお題 映画100 021:美女と野獣 「で? そいつの呪いを解かないと死ぬっていう呪いが俺にかけられてると?」 「そうですね」 「……なあ、俺今思いっきりお前をぶん殴りたくなったんだけど?」 「それは痛いから嫌ですね。あ、今日のラッキーカラーはアンバーですよ」 のほほん、と食えない顔の男はぽかぽか陽が当たる位置で。 ゆらりゆらりと揺れる椅子に腰掛けてのらりくらりと俺の追及をかわす。 「栄口って言ったな」 「そうですね。で、貴方は高瀬準太さん」 俺が生まれた日に偶然ちょっとばかし虫の居所が悪く。 わざわざこの国の王子である俺が生まれた日にご丁寧に呪いをかけてくれた。 大魔法使いとかいう、やつだ。 俺より若く見えるのはそういう魔法を使っているから、らしく。 「魔法使いにフルネーム名乗るあたり迂闊ですねー」 「な」 「ついでにもう一つプレゼントさせてもらいます」 ぼわん、と紫色の煙が一瞬俺を包んで。 「……何、した?」 「素敵なプレゼントです。今から呪いを解きに行く相手と結婚しないと死んじゃうって」 「お前はそんなに俺が憎いのか!」 俺は、全く見ず知らずの森らしきところに放り出された。 うっそうと茂った、いかにも何か危険なモノが出ますよ感全開の森に。 「あ、の」 ぐるぐる迷うとしか言いようが無い非常に情けない事態に陥ったとき。 小さな声が聞こえた。 ……飴色の体毛の、狐? 「どうかしたか?」 どうかしてるのは俺だけど。 「あ、め、が」 「あめ? 雨かそれとも飴か?」 「雨、が」 言い終わらぬうちに鼻先に一滴。 揺れる飴色について行けば、山小屋にも似た家らしき建物。 「あ、の」 頭の先から尻尾まで飴色。 ……飴色? 「ちょっと失礼」 ふわふわした小さな身体を持ち上げ。 小さな鼻先ではなく、きゅ、と閉じられた口元に。 「……毛、口に入ったな」 「う、ぇ?」 「…………とりあえずシーツとか大き目の布!」 髪と目の色だけ飴色で白い肌をあらわにした。 ちょっと目のやり場に困るなと思うほど俺のタイプの子供が。 俺の腕の中に納まっていて。 「準太、それちょっと犯罪じゃねえのか?」 「確かに」 身寄りも何も無いという子供を連れ帰って。 まぁ、連れ帰る前に色々と花嫁修業モドキを仕込んだわけだけれども。 それをあっさり指摘され。 「だってこいつ嫁にしないと俺が死ぬんですよ」 「てかもうお前の脳細胞が死んでると思うぞ」 「慎吾、素直な言葉ってのは結構ストレートに人を傷付けるもんだ」 「和己みたいにな」 「あ、の」 「「今から良い養い親見つけてやるからな」」 花嫁予定と引き離された。 てか。 「なあ栄口とやら」 「なんですか高瀬準太さん」 「……なんで俺の嫁がお前の養子になってるんだ」 「家の外は野獣とか野獣とかで危険がいっぱいなんで」 陽だまりで身体を丸めて眠る全身飴色の小さな狐。 「準太、さん?」 口元に唇を寄せれば人の子供の姿になる。 「知ってました? 俺は別にいつまでって期限を口にしてないんですよ」 「な、に?」 「子供に手を出すような奴はいつまでも怯えてろってことですかね」 俺の手から奪い返した瞬間に柔らかなタオルにくるまれて。 姫抱きをされて首を傾げる、俺の花嫁予定。 「ああ、浮気しても寿命が縮まるんでそこのところよろしく」 「お前人を苛めて楽しんでるだけだろ!」 「失敬な。生殺しで勘弁してあげてる寛大な心の持ち主って言って下さい」 これから六年もお預けを食うとは、このときの俺はまだ知らなかった。