100個で1組のお題 映画100 024:夜の天使 「ああ、じゃあ光合成してるんじゃないの?」 「……栄口、お前それ本気で言ってるか?」 「勿論」 薄い水色の硬式球くらいの大きさの卵が玄関の扉をあけてすぐのところに落ちていた。 危うく踏みそうになったが、踏まなかった。 なんとなく気になって、温めてみた。 小さなカゴに柔らかいハンドタオルを敷き、日向に置くこと7日。 ……孵った。腐らないで。 それも殻を割って出てきたのは小鳥じゃなければ爬虫類でもなく。 翼付きの、子供。 てのひらサイズ。 「何かを摂取しない生き物なんていないだろ? あ、水くらいはあげてる?」 「ああ、まあ」 「じゃあやっぱり光合成だよ。天使ってエネルギー効率が良いんだね」 「おい」 「天使っていうくらいだから他の生き物の命を奪うっていうのができないんじゃないの?」 「……は?」 「あ、もしかしたら牛乳なら飲めるかもよ? 試してみたら?」 きらきらと太陽の光を溜め込んだみたいな髪の毛。 ふわふわしたとてもではないが飛べそうに無い翼。 大きくて零れ落ちそうな飴色の目。 じーっと見つめられると居心地が悪い。 「飲むか?」 レンジで作ったホットミルクをスプーンですくって顔の近くに寄せてみた。 金属のじゃ火傷するかもしれない、と木のスプーンにしてみたけども。 俺の顔とスプーンの中身とを交互に見て、またじーっと俺を見る。 「こうすれば、飲める」 スプーンに口を付けて、ほんの少しのホットミルクを飲む。 二、三回繰り返してからもう一度、スプーンを顔の近くに寄せれば。 「……美味いか?」 翼をぱたぱたさせて上気させた顔で見上げられた。 ……気に入った、のかもしれない。 「そういえば、喋らないの?」 「ああ」 「でもなんとなく言いたいことは分かる、と。凄いねー、阿部。コミュニケーション取れてるじゃない」 「…………お前本当にそう思ってる?」 「暴力的な絵かなとは思ってる」 「栄口」 「光合成してるってことは、夜は寝てるんだよね」 「人の話を聞く気は無いんだな?」 「惚気を聞く趣味は、確かに無いなあ」 すぴすぴと寝息を立ててかごの中で寝てるちびは若干大きくなった気がしないでもない。 でもまだ布団がハンドタオルで足りてる。 「お前、名前なんていうんだ?」 すぴーすぴーという平和な寝息しか返ってこなかった。