100個で1組のお題 映画100 映画100 025:メトロポリス 天に向けてそびえたつ真白きビルの群。 間を縫うように走るモービル専用レーン。 うねうねと曲がりくねったそれは上部が視界を遮らないように透明ではあるものの。 走行面の裏側は深紅の塗装に彩られている。 データで見ただけの人体模型、セントラルエリアは差し詰め心臓といったところか。 「あちゃー、血栓できちゃってるよ」 「浜田、お前もう少し言葉を選べ?」 「でも分かりやすいじゃん。なあ、梅」 「まーな。サーティーンは特にどろどろ血だからしょうがないんじゃね?」 様々な企業郡と中央政府郡を結ぶレーンのナンバーは13。 ものっそい混む。ちょー混む。 オフィス街と官庁街が空いてんのは週末と祝祭日。 逆に週末と祝祭日に混むのはショッピング街と郊外のレジャー施設に抜けるレーン。 まあ、分散してるからそんなにどろどろでもない。 「どこか調整する必要があるか?」 「んー、梅、ちょいデータ転送して」 「あいよ……あ、浜田、梶、お客さんだ」 「「客?」」 レーンごとの出入り口の管理を行うのが俺たちの仕事、で。 この中途半端に忙しい時間に客? てかドア開いてないんですけど、梅ちゃん。 「いらっしゃい」 「あ、おは、ようござい、ます」 「はよー」 ぷしゅーっと開いたドアの向こうには。 「……って梅お前! 三橋!?」 「浜田、三橋じゃなくて親善大使」 「そういう問題じゃなくて!」 象牙色のスーツに着られた感のある、幼なじみ。 や、そうじゃなくて。 「ごめん、なさい」 「や、だから」 「もしかしてあれか? 来月の交通規制に関する資料を持ってきてくれたのか?」 「は、い」 「行ってくれたら浜田に取りに行かせたのにな」 ぽんぽん、と軽く頭を叩く梶を見上げてでもしょんぼり。 あー、俺、やっちゃった? 「お仕事の、邪魔、して、ごめんな、さい」 「「浜田」」 同僚二人の目がすうっと細まる。 慌てて立ち上がってぽんぽん、とふわふわの頭を撫でる。 本当はこんなことして良いような立場の人間じゃないんだけど。 「邪魔になんかなって無いから気にすんな?」 「ほん、と?」 「でも一人で動かれると心配はする」 「確かになー。あのむっつかしい顔のSPは?」 「阿部だろ、それ」 「そうそう。阿部と栄口は?」 腕の中の身体がぎくっと強張る。 あー、これは。 「梅、ドアロック」 「あいよ」 「ハマちゃん?」 「どうせ怒られるんだから、充電させてちょーだい」 あーもー、んっとに滅多に充電できないくらい遠くなってしまった幼なじみ。 でも未だに可愛い弟分で俺はヒーロー。 が基本でまあ、ロミオとジュリエット状態なんだけども。 「あ、思いっきりシステム攻撃してる奴がいるんだけど」 「へぇ……面白いじゃないか」 梶の眼鏡がきらんと光った。 ……うーん。 どだだだだだって凄まじい足音ががんがんドアを蹴る音に変わるまで、あと10分、かな。