100個で1組のお題 映画100 026:夏の思い出 麦わら帽子とひまわりとセミの声とどこまでも広がる青い空。 入道雲と夕立と雨上がりの虹と手を繋いで帰った田んぼのあぜ道。 「って、夢、か」 ベッドから落下。一緒に落ちた目覚まし時計はまたしても成仏。 今までに何個昇天させたか記憶が定かじゃない。 「というか、なぜに今頃」 フィルムでしか見たことが無いいわゆる『田園風景』 俺自身が体験したことは無いし、恐らく今生きてる人間のほとんどが現実として認識していない。 けれど懐かしいと思う、その景色。 「……あ、やばいかも」 ぼんやりと考える暇も無い。仕事だ仕事。 さっさとシャワーを浴びて冷蔵庫に常備してあるゼリーパックの中身を吸い込み。 手早くスーツを着て、鞄を手にとって鍵を閉めダッシュ。 オフィス手前のファーストフードで炭水化物を摂取。 『教えてあげようか?』 『う、ん!』 目を覚ますために頼んだオレンジジュースが夢の中の光景を呼び覚ます。 知らないはずの、景色。 思い出せない、麦わら帽子の下のあの顔。 「秋丸、朝から何難しい顔してんだ?」 「おはよう、榛名。いやー、不思議な夢を見てさ」 「夢?」 腐れ縁としか言いようの無い同僚にも、上手く伝える自信が無い。 とても大切な記憶とどうしてこの目で見たことの無い景色がリンクしてるのか。 「どーでも良いけど、今日あれだろ? かいちょーのマゴとかいうの来るんだろ? めんどくせえ」 「思っても会社の近くでそういうことは言わないほうが良いよ」 「案内役なんてのはヒマな受付嬢に任せといてくれってんだ。あー、案件山積みだってのに」 「そういうこと言ってると受付のお姉さん方とコンパしてもらえなくなるよ?」 「あー、かったりー」 出勤予定時刻5分巻きで出社。 本日の予定は榛名と一緒に会長の孫の案内。 それも社内じゃなくてこの近辺の、だ。 今年の春から大学生。大学と会社と下宿先の三角地帯を埋めるお手伝い、らしい。 『一緒にいられる魔法の言葉があるんだよ』 『ずっと、一緒?』 『うん、ずっと一緒』 『教えて! 教えて、恭平お兄ちゃん』 ……誰だったかなあ。どうして出てこないかな、顔。 「おい、秋丸」 「へ? あ、すいません」 会長の話を聞いたまま、俺の頭の中は夢か現か怪しい『過去』へ。 「よ、ろしく、お願い、します」 榛名の声でもまだどこかに引っかかっていた俺を。 引き戻したのは、小さな声で。 小さな声、で。 「ああああああああ!」 「ひっ! ……あ」 「どうしたよ秋丸」 「麦わら帽子!」 「恭平、お兄ちゃん!」 約束を思い出したのは偶然ではなくて。 渡された資料の写真を、つまり懐かしい顔を見たからであって。 「何、知り合い?」 「あれ、男の子?」 そんな、再会の日。