100個で1組のお題 映画100 029:水のないプール トンネルを抜けて。 僅かな灯りしかない地下道を潜って、潜って。 辿り着いた、そこには。 「どう、して」 「そんなのも分かんないのか?」 プールがあった、はずだった。 使われないまま朽ちてしまった、水の無いプール。 がらんとした空間だけが広がっていたはずなのに。 独りで泣くための、場所だったはずなのに。 「お前が泣いたから、ここは水浸しだ」 「そん、な」 初めて会ったはずの男の膝下まで、水が。 溜まって、いた。 「信じられないんなら下りてきてみろよ」 「え、わ、ぁっ」 腰をつかまれて。 靴と靴下を脱がされて。 男の腕に抱えられたまま、つま先が水に濡れる。 「水だろ?」 顔を上げれば自信に満ちた笑み。 ぺたりと大きなてのひらが頬に触れた。 「今もこうやってお前が泣けば泣くほど」 「水位が上がる」 「お前の涙が全部ここに溜まるんだ」 いつの間にか腰の高さまで上がってきた水。 少し冷たいそれは、流れるうちに冷えてしまった涙そのもののようで。 「なんでお前そんなに泣いてんだ?」 「分かり、ませ、ん」 触れるてのひらが温かい。 いつの間にか背中に回っていた手が温かい。 落とされる笑みが温かい。 「涙の海で溺れるなんてーのはロマンチックで良いけどよ」 俺の性には合わない、と。 耳元に、囁き一つ。 肩の上まで上がってきた水位。 「だーから、泣くなっつーの」 「で、も」 「俺を信じろ」 水が引いていく音が、聞こえた。