100個で1組のお題 映画100 036:闇の狩人 「おかえり、なさ、い」 「帰ったぞ、廉」 「怪我、は?」 「今日の奴は弱かったら、そんなもんねえよ」 「よか、った」 「それよりも今日は聞いてくれねえの?」 「え、あ、ごはん、と、お風呂、とどっち、に、します、か?」 「食事兼廉兼風呂」 「う、あ、は、い」 「ただいま、廉」 「……おかえりなさい、慎吾さん」 真祖狩り、というのが俺の仕事だ。 吸血鬼と聖職者のハイブリッドなんていう洒落にならない組み合わせの両親を持った俺。 母体が吸血鬼だったのが幸いしたらしく、母子共に健康。父親は裏切り者と罵られたが、それは母親も同じ。 俺の肉体年齢が成人に達したときに二人とも各同胞に殺された。 二人とも覚悟してたんだろうけど、俺はそうもいかない。 親父の形見の十字架片手に復讐の旅、なんてものをしていた。 その先でもう100年ほど前に出会ったのが廉。 こっち側に引き込むつもりはなかったんだが、止むに止まれぬ事情で契約だけ。 定期的に俺の力を体内に取り込むことで、人でありながら長い寿命を得た存在になっている。 どういう方法で、なんて野暮なことは聞いてくれるな。 俺にとっても廉にとっても至福の時間であることに変わりはないことは確かだ。 「おーい、意識はあるか?」 「は、い」 「悪いな。戦闘直後はどうにも抑えが利かねえんだ」 「だいじょう、ぶ、です、よ」 腕の中でだいぶくたっとした細っこい身体は、半分人であることを止めたときのまま。 真祖に連なる奴に先に食われそうになったもんだから、慌てて俺のものにしちまった。 ……泣き喚かれたなあ、むちゃくちゃ。 外だったしなあ、昼間だったしなあ、下手すりゃ見つかるところだったしなあ。 「もうちょっと肉つけてから喰えば良かったな」 「ご、めんな、さ」 「喰った相手に謝るなって」 「で、も……ん、っ、ぁ」 細く今は桜色に染まった首筋に冷たい歯を立てて。 甘い甘い糧を吸い上げれば、反論は吐息に混じる。 震える細い身体と、漏らされる甘い声に食欲ではない方の欲求が高まる。 「メシじゃない方、喰わしてもらうぞ」 俺らの間では魂の伴侶なんてこっ恥ずかしい呼び名もあるこの関係。 本当は持たないに越したことがない。 伴侶は一切戦闘能力を持たない。だから敵に狙われる。 伴侶を失ったハイブリッドは壊れる。朽ちるか自ら命を絶つか誰かの糧になるかのどれかしか無い、らしい。 「慎吾、さん」 「なんだ?」 「大好き、です」 俺は多分壊れるだろう。それか、壊れたまま狂ったまま生き続ける。 「足りねえな、廉」 「う、え?」 「愛してるだ、分かったか?」 俺の冷たい熱を分け与える相手は、こいつ以外には必要ない。