100個で1組のお題 映画100 038:極楽特急 「あ」 小さな小さなその一言を拾ったのは、偶然だったのか。 それとも必然だったのか。 「おかしいだろ、この列車」 「まあ、そう言われればそうかも」 豪奢で快適な旅を提供します、と。 銘打たれた豪華列車。 豪華客船の内容を模したこの列車。 出発地から目的地まで一度も途中駅に止まることなく走り続ける。 期間はおよそ1週間。 大陸横断鉄道、とも呼ばれる。 「ここ、どこ、だろ」 全15両ととても長いこの列車。 豪邸を思わせる空間は、とにかく迷いやすい。 「どうし、よう」 財界の著名人たちが揃った今回の催し。 パーティに引っ張り出されるのは気が引けたけれど。 無断で欠席するわけにはいかない。 求められているのは自分ではなくて自分の名前だと知っているけれど。 「? ここの車両は立ち入り禁止のはずだけど?」 「え、あ、ご、ごめんなさい」 「……あ、準さん! このヒト!!」 背の高い方が、びしっと指を突きつけてきた。 びくり、と後ずさればもう一人の方がその指を退ける。 「驚いただろ? ごめんな、こいつ馬鹿で」 「ちょ! 何それェ!!」 じりじりと後ろに下がれば。 がくん、と踵が支えを失って。 「!」 「ほんっとごめん! ダイジョーブ?」 気が付けば、抱きかかえられていた。 さっき自分に指を突きつけていた方の人が。 「おいそこでセクハラするなよバカ」 「な! 俺がいつどこでそんなことしたんですかー!」 自分を抱えたまま、ずかずかと歩き始める。 というか、抱え上げられている。 横抱き。いわゆる、お姫様抱っこというやつで。 「目ぇ丸くしちゃってるだろ。つか俺にも説明しろ」 「あ、ホントだ。うっわ、かーわい」 「う、ぇ、……?」 髪の色も違うけれど、目も違う色、だ。 と思っている場合では、ない。 「だってこの子でしょ、東洋の真珠」 「「え?」」 「慎吾さんが言ってたもん。この列車の中で一番可愛い子がそうだって」 「ああ、慎吾さんの好みな」 「そうそう! あ、俺りおーね。よろしく」 「あ、はい」 「俺は準太だ。んじゃ用件は終わったな。行くぞ」 「はーい」 がらっと開かれたのは、最高速度時速100キロメートルで走る列車の窓。 吹き込んでくる風に目を瞑って、収まった瞬間に目を開ければ。 「そ、と」 「あ、あんまり喋んないでね。舌噛んじゃうからさー」 変わらず腕の中。 だけれども。 「ど、して」 「詳しい説明は後でする」 「一言で済ませると、ただいまゆーかいちゅーだけどね!」 飛んで、いるらしかった。 それでもって攫われているらしかった。 どうしてだか、分からないけれど。