100個で1組のお題 映画100 040:つばさ 毎日少しずつ大きくなるそれ。 骨が軋んで、みしみしと音を立てて。 うつぶせでしか眠れなくて、でも安眠には程遠くて。 成長期が終わると同時にそれの成長も止まる、という。 痛みがなくなったのはうれしいけれど、それは。 もう自分の肉体が成長しない、ということ。 「まだ痛むか?」 「もう、あんまり、痛くない、です」 「そっか。良かった、ってのも変だけど良かったな」 「……はい」 俺の成長期というのはとうに過ぎ去って。 似合いすぎててむしろ嫌味だと言われる漆黒の両翼が生えている。 まあ、基本的には具現化させていないけど。 服が破れるし邪魔だから。 自在に収納可能になる、イコール成長しきったにもつながる。 ようやく見つけてかき口説いた俺のつがいは成長期真っ盛り。 だった。 純白の両翼。 夜中になると成長するそれに俺の腕の中で毎日涙を零し続けた。 ここまで痛みが激しいのも珍しいらしい。 俺なんか安眠できてたからな。 色が薄ければ薄いほど、白に近ければ近いほど。 その痛みは強いって噂は聞いたことがあったけど。 「しまい方のコツは分かったか?」 「え、あ、なんと、か」 「おし。じゃ、しまってみろ」 まだ収納時にも具現時にも痛みを伴うらしいが、慣れだ、慣れ。 ゆっくりと時間をかけて姿を消していく翼の、その根元。 薄い背中があらわになる。 こいつが育ち始めてから触れることができなかった、真珠色の素肌。 「は、るな、さん? ……や、痛い、です」 「まだ赤み残ってるな」 指先で撫でるようにたどれば、薄い背中がびくりと跳ねる。 『つばさなきものたおることならず』 その鉄則に従って、今まで我慢し続けたんだ。 機は、熟した。 「榛名、さん?」 「お前を、俺のつがいにするからな」 少しして、真っ赤に目尻が染まったけれども特に非難する言葉や拒絶の言葉はなく。 『つばさかわしたつがいをはなすことならず』 俺はここ数年抱きしめるだけだったつがいをようやく抱くことができたのだった。