100個で1組のお題 映画100 041:血と砂 敵はさんさんと降り注ぐ陽射しだけでも照り返しでも灼熱の砂でもなく。 それら全てを遮る方法が全く無いことだ。 そして夜は極寒地獄。 そんな砂漠に置き去りにされて二日目。 てか軍が壊滅して二日目。 あー、参謀してたお陰で死ななかったけど、これから死にそう? みたいな? 不幸中の最大の幸いは防寒具と食料と水を持っていたこと。 命を繋ぐ最大の糧の水は、もうそろそろ尽きようとしている。 見渡す限りのサンドベージュと陽炎。 どうせだったら大恋愛の末の駆け落ち。 でもって発見されたときには手と手を取り合った仲睦まじい白骨死体が良かった。 ……ああ、思考まで干からびてきた。 水分って大切だなあ。 「……! ……に……だ!!」 あ、なんか声が聞こえる気がするような。 こんなとこでそんなに怒鳴らなくても良いのにねえ。疲れちゃうじゃんねえ。 「……って、……が」 ほら、つられて大きな声で返さなくたって、良いんじゃないの。 ……あ、ちょっと陽射しが弱まった? 「あ、の」 さっきの大きい声が嘘みたいに、弱弱しい声が、耳元、すぐ近くで聞こえる。 あー、もうお迎え来ちゃったのかな、絶世の美女が良いなあ。 「おい、塊に声かけたって無駄だぞ」 「でも」 「急いで戻らないと俺たちがそれになっちまうんだからな」 えー、俺まだ死んでないんですけど、多分。 って、言いたくても喉に声が張り付いて言葉にならない。 あー行かないでほんとに頼むから。まだあっちのお迎えじゃないみたいだから! 「王子!」 「お、れが、つれて、行き、ます」 「お前それがどういう意味だか分かって言ってんのか」 「あ、べくん、と、同じ、です」 「…………っだーもう、しゃあねえなあ。おい、死にかけ!」 ごろんとひっくり返された、俺の目に映ったのは二人組の輪郭。 背中の下に手を入れられて、差し出されたのは、水筒……? 「自力で立ち上がれない奴は必要ねえからな」 ごくごく飲み干して、急にクリアになった視界と頭の中。 陽射しと砂嵐を避けるための防塵ケープの内側の刺繍は、本来の敵さんの紋章だけど。 「あ、りがと。助かった」 泣きそうな顔の方に、多分形になってるはずの笑顔を浮かべてそう言えば。 「拾ったのが敵国の捨て駒じゃ土産にもならねえな」 眉間にしわ寄せてる方がさっくり事実を指摘してくれた。 「う、ちには、敵、はいない、でしょう?」 「表向きはな。どうすんだこれ。抱え込んだら厄介だぞ」 「で、も、ほっとけ、ません」 ぎゅっと俺の服の裾掴んでくれたのは嬉しいんだけど。 さっき「王子」って呼ばれてたよねえ。 そしたらこっちの人は砂漠の大国の王子、で間違いないよね。 「おれ、が責任、持ち、ます」 「ちっ」 「だ、め……?」 なんか痴話げんかみたいなのに俺の命がかかってんのかと思うとちょっとあれだけど。 命だからね。一つしかないから。 「あー、俺意外とお買い得物件だと思うよ」 「あ゛?」 「鋼の国の軍の参謀やってました、水谷です。ちなみに陸軍の少尉ね」 初めまして、王子様とオトモダチ? そう笑いかけたらオトモダチから鉄拳制裁を食らった。