100個で1組のお題 映画100 042:純潔の館 夜毎訪れる金に物言わせた輩。 どんどん空けられるボトルは少しでもここにいる天使に気に入られるため。 ひいてはオーナーにその名前を記憶してもらうため。 セラフィム。 それがこの店の最高位の男娼。 オーナーに直接許可された客にしかその姿を見せない、と。 半ば伝説になりつつあるその天使を一目見たいがために。 特に気に入りがいるでもないのに大枚を叩く輩もいるとかいないとか。 「あ、の、和、さん」 「! どうしたんだ、こんなところに」 フロアチーフを小さな声で呼んだのは、天使の制服を身に纏った小柄な影。 透けそうで透けない純白の薄いドレスシャツに、ぴったりとフィットした細身のパンツ。 淡い色彩が儚げな印象を与える彼は、そうは見えないが部屋持ち。 ゆえに。 「慎吾さ……オー、ナー、が、来るって、本当、です、か?」 こんなフロアに顔を出して良い天使ではない。 「ちょっとこっちへ」 「は、い?」 ゆらりと首を傾げながら手を引くその背中に。 何対かの視線が興味深そうに刺さる。 隠そうとしたのが却って仇になったのか。 何人かフロア担当が客に呼び出されるのが、見えた。 恐らく今自分が手を取っている相手をここに呼べだの、誰だだの、だろうと思う。 「悪い山ちゃん、フロア頼む」 「はいはい。ダメでしょ、出てきちゃ」 「ご、めんな、さい」 「山ちゃん」 「反省の証にここでお客さんをお出迎えすること。できるよね」 「は、い」 「おいおい、それじゃあ下がらせた意味が」 「だーいじょうぶだよ。ほら、和己もフロアの収拾つけるの手伝って」 心細げに立つ彼が、接客などできるわけがないのを知っているのに。 「後3秒、2、1……ほら、大丈夫でしょ?」 「ああ、まあ」 「あそこにいるの問い質されてそれで大丈夫かどうかは知らないけどね」 「……何週間振りだ?」 「2週間。まあ、俺らからの労いを込めてあれなら、こっちにはお咎めないでしょ」 おかえり、なさい、と常では滅多に見られない極上の笑顔に迎えられて、驚きはしたものの。 夜の帝王なんて爆笑ものの二つ名を持った我らがオーナーは軽々と天使を抱え上げ。 悠然とした足取りでフロアに向かうらしい。その道をさらりと譲る。 物言いた気な視線は友人を見習って笑顔でかわしておくことにした。