100個で1組のお題 映画100 045:夏至 太陽が沈んだとき、それは。 ――その朝が終焉を迎えるとき、だ。 だからその朝の最盛期を夏至、と人々は振り返ってこう呼ぶ。 太陽が、皇帝が最も空で輝いていた時期のことを。 「君が託宣の君?」 星を読み先を読む。 つまり未来に起こるだろう事を予測することができる先視の術者を。 朝に招くことができるか否かが、その朝の長さを左右すると言われている。 たとえば水害や旱魃、流行り病や戦。 様々な害となることを予め予期していれば対策が取れる。 策がなければ、害を被るのは皇帝ではなく民。 民意を失えば太陽は沈む。 それを最小限に食い止めるための、措置。 反乱軍として戦を起こし、民意を勝ち得た友人が朝を起こした。 けれども自分たちにどれほどの政治的手腕があるというのか。 補えるものはどんなものでも補っておきたい。 それが皇帝補佐である自分の使命だと、秋丸は考えている。 「んなわけあるか。というか神殿に軍人が立ち入ることは禁じられているはずだが?」 「武器は持ってないし鎧も外しましたけど?」 「血の気配を持ち込むな、って話だ。それに星視は今の時間は寝てる」 「……ああ、星を視る人が昼間起きてるわけがないね、そういえば」 「そうだ。だから早急にお引取りいただこう」 ちらりと窺った様子ではこの垂れ目の神官殿は軍人というか。 国そのものに信頼を置いていないようだ。 まあ、先々代の皇帝が星視ができる人間に対してしたこと思えば無理もない。 (籠の鳥にしたって噂はあながち嘘でもないんだな) ここまで通してもらえたのが奇跡に等しい。 かといって、手土産なしで帰るわけにはいかない。 腐っても皇帝補佐なので。 「じゃあ星が出たらまたお伺いしようかな」 「役目の邪魔だ」 「そこをなんとか。節を曲げて」 「神殿が節を曲げるわけにはいかないだろ。あんたらとは違うんだ」 「でも皇帝の庇護は受けるって? これこそ節が曲がってると思わないかい?」 「それはあんたらが勝手に」 「見逃してるだけだよ。そうは思わない? ねえ、さっきからそこで聞いてる人」 「! お前」 白い布が礼服の裾に見えないこともなかったから鎌をかけてみれば、当たり。 おずおずと姿を現せたのは、小柄な人影。 ……眠たそうってことは、つまり。 「我らが太陽の夏至を長いものにするためご助力願えますか」 垂れ目君の脇をすり抜けて、驚いた顔の手前で膝をついて深く頭を下げる。 冷たさが身に凍みる大理石の床で感覚が失われるよりも先に。 そっと躊躇うように指先が肩にかけられた。 「託宣の、君?」 こくり、と頷くけれどもその声は耳に届かない。 そういえば、星を視て未来を読む代償として声を奪われるのだと聞いた記憶がある。 「助力を願えますか?」 こくり、ともう一度。 音を紡がない首が縦に振られた。