100個で1組のお題 映画100 046:無防備都市 国がある場所のそのものが自然の要塞っていうか、砂漠だから。 噂に聞いていた以上に、砂漠の大国、降星国は国の中心部の防御が甘かった。 城郭は岩で覆われているだけ、だけどまあここまで生きて辿り着けるかどうかが結構謎。 進軍してきたとして、ね。 「えーっと、教育係さんだっけ?」 「栄口で良いよ。俺も水谷って呼ばせてもらうから」 「じゃあ栄口、ここの国の食糧ってどうなってるの?」 王子様に連れられてくる間に見たのは見渡す限りの砂漠。 果てしなく砂漠。 「水谷は鋼の国の人間だって言ってたよね」 「うん」 「ここは国の玄関口だよ。あと数里も行けば緑地地帯になるし一般的な市街地もある」 「は?」 「砂漠の大国って思われてるだけで、砂漠も含む大国、が正確なんだよ」 じゃあなんだって王子様はこんな端まで、てか。 砂漠をふらふらしてたわけ? 下手したら死ぬでしょう、王子様なのに。 「王子様、変わってる?」 「可愛いよ」 「……それはもう知ってるんだけど」 「あと意外と頑固なんだ、あれで」 栄口が指差す先には俺の命の恩人の王子様とその侍従らしい阿部。 でもって。 「近衛軍の三番隊の田島と泉だよ」 「丁寧な解説ありがとうって、え、なんで近衛軍?」 「王子だからね。あ、あと俺も正確には近衛軍の三番隊の隊長補佐なんだ」 「へー」 「で、今三番隊、つまり王子の近衛を勤める軍には参謀補佐がいなくて困っててね」 にっこりと笑った栄口が目の前に突きつけてきたのは誓約書。 大陸共通語で書かれてるから読めないことはないって言うか、読めなきゃ困るんだけど。 「今お忍びできてるから、都から追っ手がかかる前に既成事実作っちゃいたいんだよね」 「お忍びなのに追っ手ってどういうことよ」 命を救われた代わりに過去の自分を捨て王子に仕えることを誓う、と。 ものすっごく大雑把に言うとそんな感じの文章が示されたそれに。 署名をするほか、どうすることもできないし、今の俺の立場。 水谷文貴、と名前を書いてさよなら昔の自分、と。 「実はうちの王子、色んな部族から政略結婚を申し込まれて凄く困ってるんだよね」 「王子なのに?」 「王子だからだよ」 「……もしかして王子様の軍って」 「色仕掛けから王子を守るのが仕事だね。さ、これからよろしくね、水谷」 阿部が睨んだら色仕掛けなんて一発で撃退できるんじゃないの、と。 思ったけど笑顔の栄口が怖かったんで口にするのはやめておいた。