A.H氏の場合 「「お兄ちゃんも好きな子に渡したら良いのに」」 何から何までサラウンド攻撃されると、反論する気力が萎える。 というかむせ返るような匂いで既にくらりと眩暈がしそうだ。 空きっ腹にこの匂いは、ある種拷問。 「俺は男だから渡さねえんだよ」 「そんなことないよ、「ねー」」 「そうよ。最近は友チョコが流行ってるんだから、「ねー」」 「「こういうイベントは逃しちゃダメなんだからね!」」 びしっと指を突きつけるタイミングは言わずもがなでぴったりだ。 女って、こええなあ。 という昨日の家でのやりとりが脳裏にこびりついて離れないではなかったけれど。 チョコレートに限らず色んな菓子やらなにやら与えてるじゃねえか、俺。 (まっさか今日チョコレートやったからってどうかなるってんじゃねえし) 今日も今日とて人の顔を見ては期待の眼差しを向ける問題児どもに頭を抱えつつ。 「ったく、この糖分を授業中に役立てろよ?」 田島に飴を、三橋にチョコレートを、それぞれの手のひらの中に落とす。 どうせ気付かれやしないだろうけども。 「三橋?」 「な、んでも、ない! あ、りが、とう」 走り去っていった顔が赤かったのは、どうやって問い詰めたら泣かれないんだか。