100個で1組のお題 映画100 048:狂熱 降星国は砂漠の大国だ。 よってどこもかしこも。 「あっついなあ」 「日向にいたらそりゃ熱いに決まってるよ、水谷」 「だってこっからじゃないと試合の様子が窺えないじゃん」 「王子が気になる?」 「そりゃーご主人様だからね」 「自分が立てた作戦でお守りできるかどうか、でしょ」 「……さすが西広先生。そこまでお見通しでしたか」 「大丈夫だよ。田島は本当に強いから」 「知ってるけどさ」 降星国の首都から少し北に位置しているこの都市が賑わうのは稀なことらしい。 王子もしくは王女の求婚者たちが一同に会して武術大会を開く。 優勝者には王子もしくは王女から杯が贈られるかもしくは。 「額に口付けで求婚を承諾するって、ほんっとに絵本みたいな世界だよね」 「伝統を重んじる国なんだよ。あ、田島が勝ったね」 「これで残ってるのは花井と泉と田島と巣山と」 「王子に熱烈に求婚の申し込みをしてる部族の子息のご本人たちだけだね」 砂漠で行き倒れていたところを救ってくれた王子の参謀補佐になって数ヶ月。 『実はうちの王子、色んな部族から政略結婚を申し込まれて凄く困ってるんだよね』 という隊長補佐の栄口の言葉を勘違いしていたと気付いたのはつい先頃。 この武術大会の開催目的と出場者を知ってからだった。 で、俺が出した案は優勝者への待遇云々から拾った抜け道で。 もし近衛の者が優勝した際には、その者が求婚している場合は伴侶とする。 求婚していない場合は三年後に再び大会を開催する、というこの条項に則って。 近衛の中でも武力に秀でた隊員を出場させた。それも四人。 勝ち上がってくる確率よりも潰し合う確率の方が高かったけれど。 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるの法則に従って、頑張ってもらうことにした。 結果、皆残ってる。さすが王子ラブ。 「問題はここから先でしょ。まったく、つわものしか残ってないじゃん」 「相打ちを期待したんだけどね。特に榛名殿と高瀬殿」 「こりゃ、明日の決勝戦まで気が抜けないね」 「そうだね」 阿部の色仕掛けで怯むわけがなかった。 いずれ部族の長となるような輩がたかが侍従に眼力で負けるはずがない。 「ほんっとうに気が抜けないね」 えっらいところにつれてこられちゃったなあと。 あっという間に日焼けした皮を剥きながら俺は頭を急速回転させていた。