100個で1組のお題 映画100 054:ファンタジア 自称魔法使いのたまごを拾った。 全長15センチくらいの、いやにふわふわしている髪の毛と零れるんじゃないかってくらい大きな目。 ひらひらした、水色のスモックには黄色と赤のチューリップのアップリケ。 かぼちゃパンツに白いソックスにマジックテープで留めるタイプのスニーカー。 いつも大事そうに握ってるのは魔法のステッキじゃなくて、なぜか硬球。 「で、修行してんだろ? 魔法使えるのか?」 犬にくわえられてる人形かと思いきやじたばたしてたから助けたら、自称魔法使いのたまごだった。 涎だらけだったから不思議な服を脱がせて温めの湯を張った洗面台に突っ込んで。 癖で染み付いている手洗いとうがいをさせて、ウェットティッシュで靴の底を拭ったは良いものの。 「たまご だから 少し、だけ」 「少しって、どんな?」 そういや名前聞いてなかったなあと思いつつも、机の上に広げてやったハンドタオルの上に正座をしている頭を見下ろす。 下手につついたら大怪我させそうだけども、髪の毛が気になる。 耳かきに付いてる梵天みたいな感触がするのかそれともぽんぽんみたいなのか。 やっこいのか意外と硬いのか。 「ほん とうは たくさん 幸せに できる、んです」 「……は?」 「ぅ」 「あー、悪かった。幸せにすんのが、魔法?」 「は い!」 急に顔が上がったから伸ばしかけた指を引っ込める。 や、魔法って楽したり魔物やっつけたりだろ。 幸せって。 「幸せって、なんだ?」 馬鹿な事を聞いた、とは自分でも思った。 俺を見上げる淡い色の大きな目が零れそうなくらい見開かれて、目が合った瞬間に慌てて逸らされた。 「お、れ なんか じゃ、全然」 「ちっちゃくても良いから。幸せ、俺にくれよ。助けてやった礼も兼ねて」 「う あ」 ぎゅう、と頑として手放さなかった硬球を握りしめて。 小さな自称魔法使いのたまごは本当に小さく丸まった。 「おい?」 そうっと、細心の注意を払って小指の指先で軽く触れれば。 羽が触れたような柔らかい感触が一瞬で離れた。 「大事 な 人、との 約、束が 守られ ます」 「……指切りげんまんしろってのか」 「た 大切 です! 約束が 守られる、おまじ ない」 小さな小さな手で俺の指先を包み込んでそっとキスらしきものをした自称魔法使いのたまごが。 顔を真っ赤にして泣きそうな顔で必死になって言うから。 ほんの少しだけ胸の隅っこがあったかくなったような感じ。 ……多分これが小さな小さな幸せってやつなんだと思う。既に。 約束なんか、守られなくても。 俺のことを思ってかけられた魔法が。 「じゃあお前も指出せ……あ、両腕でぶら下がれ。サイズ違うから」 突き出した小指に首を傾げながらも言われたとおりにぶら下がって。 「お前もうちょっと俺を幸せにできるようになるまで傍にいろ。約束な」 軽めに振って、指きった、と。 一方的に約束を。 要するに、願いの押し付けを。 「守られるんだろ、約束」 ぽかんとした顔で俺を見上げて。 じっくりたっぷり時間をかけてようやく言葉の意味が分かったらしく。 真っ赤な顔色はそのままで、溜まってた涙は零れ出して。 それでも、嬉しそうに笑って。 「はい!」 良いお返事の後にくしゃみが続いたから、もう一回、今度は温かい湯に入れて。 どっかから服を調達してやんなきゃなと、思った。