100個で1組のお題 映画100 055:夜の人々 黒のノースリーブタートルネックに指抜きグローブ。 黒いパンツにミッドのバッシュ。 翻るコートも黒。ローライドのヒップホルスターももちろん黒。 顔を半分以上覆う異様な大きさのゴーグルのレンズももちろん黒。 頭から爪先まで黒づくめ。 露になっているのはにやりと端が持ち上げられている唇だけ。 「んじゃ、ひと暴れしますかー」 『暴れるのは田島と泉の仕事だから。寝言は寝てから言ってね、水谷』 「うわ、聞いてたの西広」 『俺にだけは皆の声が聞こえるようにしてあるから。秘密にしたいなら心の声だけでね』 「りょーかい。A地点からの地図もっかい出してくれる?」 『はい。爆発音から5秒後にスタート。気を付けて』 「ラジャ」 外からは黒一色にしか見えないゴーグルの内側はマジックミラーの原理で。 目の前の景色と呼び出した画像が立体的に重なって視界の端に指定の地図が浮かび上がる。 赤いランプが目的地。 緑の点滅が現在地。 大きく息を吐き出して耳を澄ます。 いつもだったら絶対に捕まらないキャプテンと。 捕まりそうでやっぱり捕まらないエースが囚われの身になったのが3日前。 マフィアなんかよりももっと性質が悪い夜の眷属の屋敷を割り出して。 変な輩に極端に好かれやすいエースは、多分キャプテンが身を呈して守ってるだろうから。 身の安全よりも奪還。 怪我は治せる。全治にどれだけかかっても。 命は戻らない。だからなるべく早く。 「……爆薬の量、多すぎない?」 『地味に沖、怒ってたからね』 ああそう、と返して北の離れまで一直線に。 あいつら二人してハーフパンツじゃなかったっけ? でもって半袖じゃなかったっけ? 田島はともかく泉は火傷するんじゃないの? 思うところはいろいろとあったけれど、警戒が解かれた庭を一直線に進む。 「こんばんはー」 深夜だというのに明かり一つ点いていない屋敷の裏手の森にひっそりと佇んでいる離れ。 こんこんと窓を叩いて中を覗いても姿が見えない。 二階もあることだし、まあ、大丈夫かな、と。 威力弱めをセレクトして窓にぶつけてばりばりばりーん。 吹っ飛んだ窓から乗り込んで二階に上がるとドアは二つ。 一つ目が外れのトイレだったから二つ目。 こんこんとやっぱり礼儀正しくノックをして。 「やほー、王子様じゃないけど助けに来たよ……ってなーにしてんの花井!」 二つあるベッドのうちの一つしか使われてなかったら、そりゃ叫ぶでしょう。 「なんだ、水谷か」 「なんだ、じゃないよ! 今すぐその体勢どうにかしないとどうなっても知らないよ!?」 「な!! 地震かと思って守ってただけだ!」 見たとこ特に外傷がない三橋の姿に安堵してくるりと方向転換したところで。 見なかったことにしたいものが、目に入った。 「どうした?」 「花井、死にたくなかったら今すぐ離れて」 「は?」 「いいから! せっかく助けに来てもらえたのに怪我したくないでしょ!!」 背中で押さえつけていた扉だけが音もなく切り崩され。 水谷は西広の忠告通り心の中だけで呟いた。 (この件については、俺ちょっとフォローできない) 「で、花井は入院と」 「お れ、お見舞い、行った ほうが」 「行かなくて大丈夫だから。ね、巣山」 「ああ。三橋、飯でも食いに行くか?」 「! 行く!!」 刀の手入れを終えた黒い和服の背にてくてくとついていく黒いフード付パーカーにサスペンダー付ショート丈パンツ。 でもってニーハイソックスにバッシュはもちろん黒の三橋を見送って水谷は息を吐き出した。 バッシュ以外はフリルが付いてたりリボンが絡まってたりレースが付いてるのは、見なかったことにして。 「俺ね、巣山って敵に回しちゃいけないと思うんだ」 「何を今さら」 種族は違えども夜の眷属を敵としている仲間たちの中で。 どう贔屓目に見ても『友情』以上の愛情を注いでいる三橋に対してのみ強い独占欲を持つダンピールの巣山は。 三橋が絡まなければとても好青年(何年前から、とか今何歳、とかは聞いてはいけない)なのだが。 「三橋のコーディネートって巣山が全部やってるんだって知ってた?」 可愛いよねえ、とのほほんと言い放った西広の言葉によって溜まり場に奇妙な沈黙が流れたのは言うまでもない。