100個で1組のお題 映画100 056:欲望という名の電車 終着駅が大陸最大の歓楽街『エデン』であることからそのメトロは『ヘブンズゲート』と呼ばれたりもする。 『エデン』の娼館中でも三指に数えられるその店が取り扱うのは美女でも美少女でもない。 天使の名を源氏名として称している高級男娼を抱えているその名も『純潔の館』 オーナーは『夜の帝王』などという内輪では爆笑モノの二つ名を抱く表向きは青年実業家。 裏の顔は人の命と臓器、死の商人と呼ばれるような代物以外はすべて扱うクリーンな商人。 まあこれも内輪では大爆笑のネタではあるが。 「か、ずさん」 「……とりあえず動くなよ? 謝るのは後でな?」 「は い」 その帝王が寵愛してやまない最高位の天使、セラフィムの名を冠されている男娼は実は客を取っていない。 オーナーの専属。 秘されて艶やかに咲き誇る華。 絶世の美貌。 正体を知らない客の噂に尾ひれがついて、もう何が何だか。 最高の快楽を与えてくれる美姫なんてのを聞いた日には抱腹絶倒で横隔膜がけいれんを起こした。 だって。 「和己、このまま慎吾に進呈してあげたくならない?」 「またタケに怒られたいのか?」 「むしろ三人に泣かれると思うけど」 送られた花束に結ばれていたリボンを解いていたはずなのにくるくると絡まって。 白い両手首にどうぞ召し上がれと言わんばかりのピンクのリボン。 これのどこがどう一度はお相手願いたい天使様なのか。 「お前ら何開店前に内緒話してんだ?」 「「慎吾」」 開店後だけ冗談交じりにオーナーと呼ぶ友人は多忙にかまけて、昼間は滅多にこちらには姿を見せない。 これは午後から雨だな、とぼんやり思ったところではたと気付いたが時既に遅く。 「商談とか接待とかあるんじゃなかったの?」 「全部まとまったから顔出したに決まってるだろ」 「念のために聞いておくけど夕食は?」 「こいつ抱えて家に帰る」 「「……慎吾宛のプレゼントじゃないからな?」」 「三倍にして返してやるよ」 無駄に長い足で蹴り出された背後から甘ったるい声とベッドが軋む音が聞こえたのは、気のせいであってほしい。 「腕時計でも強請ってみる?」 「ピンクのリボンが掛けられてたら俺は泣くぞ?」 どうやら今日もオーナーの専属は幻の天使となることが決定したようだった。