100個で1組のお題 映画100 058:第三の選択 決勝戦が田島と泉になった時点で覚悟はしておくべきだった、んだ。 高瀬殿を僅差で打ち破った、というか会場全体に殺気を飛ばして勝った田島と。 花井に疲弊させられた榛名殿を容赦なく突き崩した泉が。 ものすっごい我らが王子さまに対して本気だってこと、俺ら皆知ってたのに。 ちなみに巣山は相手が田島になった時点で棄権した。 目が巣山相手でも本気だったからって言ってたけど絶対に。 「田島と泉の全力、見たかっただけでしょ」 「そりゃあ、うちの二大名物だからな。練習じゃああまで殺気は見せないだろ」 午後の休憩を挟んで決勝戦が行われる。 のに休憩の間も二人は一言も口を利かないで、まるで。 お互いがお互いを存在しないみたいに、して。 「なんであそこあんなに本気なの」 「見落としてた? 水谷」 「見落としって言うか、俺の読みが浅かったって言うか」 「あの二人はまあ普段はすごい仲が良いけどこと王子に限っては、ね」 にっこり笑ってる西広はしっかりばっちりこの展開を予測していたらしい。 だってさー、本気で大会の優勝者が、よーするにうちの近衛の誰かがさあ。 「こういうのも降嫁に入るの? つか、嫁さんで合ってる?」 「ある意味正しい降嫁ではあると思うけどね。花嫁衣裳も似合うんじゃない?」 にこにこにこ。 なんかの策があるのか、西広大先生は濃いめのチャイを啜りながら余裕。 俺は甘いはずのチャイがものすっごく苦いような気がするくらい実は焦ってる。 「にーしーひーろー」 「うん、分かってるよ。ねえ水谷、あの二人って一度ああなっちゃうと俺らには止められないんだよ」 「知ってるーっていうか今身を以てそれを体験してるー」 「でも止められる人、一人だけいるよね」 「そりゃ王子なら……って、え、どうやって丸めこむの」 うちの王子は嘘なんてものが一切つけないというか。 誰かを傷つけまいとして自分が傷つくことに無頓着で若干腹立たしいような人だ。 だからこの人のためだって分かってるんだけど、なんか利用ってほどのものでもないんだけど。 そういうのは、あんまり、こう、気が進まないっていうか。 「一言だけ二人に言ってもらって、それだけで大丈夫だよ」 あとは二人がどう取るかだけど、まあ、そこまで馬鹿じゃないと思うよ、と。 にっこり笑って言い放つ西広が、実は。 あの二人の空気の険悪さに。 でもってその空気に憂い顔の王子を心配して。 いらっとしてたんだと、俺は呆けた顔で頷きつつようやく悟った。 「あ、のね、二人、とも」 「どした王子」 「? 王子?」 試合開始前、二人を呼び止めた王子が告げたのはただ一言。 「怪我、しないで 下さい」 泣きそうな顔の王子に田島は笑顔で、泉はしかめた顔のまま。 「「分かった」」 短く返して控室を後にした。 結果は、推して知るべしってやつだ。