100個で1組のお題 映画100 060:どこまでもいこう 頭から防塵布でぐるぐる巻きにされたところまでは覚えているのだけれども。 自分を抱えあげた腕が知っている人のものだったので安堵して。 ゆらゆらと揺れていたのが気持ち良くて、つい。 「花井 くん?」 「ああ、起きたのか」 「うん」 ぐるぐる巻きだったけれどちゃんと顔のところは開いていたから苦しくなかった。 顔に当たる風はまだほんの少し冷たい。 夜は寒くて昼間は暑い。 乾季と雨季はあるけど、夏とか冬っていうのは教えてもらっただけで良く分からない。 「この間は、勝てなくて悪かったっての、言いそびれてたから」 「そ んな」 「仮にも王子の近衛が他の部族の子息に決定的な一打を一度も浴びせられなかったってのが、さ」 お前の名前を汚してすまなかった、なんて。 顔を見たいのに、布が邪魔して全然見えない。 「あの ね、俺は かっこいい と思った よ」 「……は?」 「俺、を 守ってくれてる みんな が、一番 かっこ良かった から」 手を伸ばそうとしたら態勢を崩して、危うく馬の背から落ちそうになるのを。 さっと支えてくれるこの手に守られてるってことが、すごく。 嬉しくて誇らしいことだと、どうしたら上手く伝えられるだろう。 「俺は みんなが 怪我 しなくて良かった って思った」 ぎゅっと、手綱掴んでる手を両手で包み込んで、がばって顔を上げたらやっぱり布が顔にかかって。 全然顔も何にも見えなくなったけど。 「あの人 に 花井君が 傷つけられて たら、俺は あの人を 許せなくなっちゃって たよ」 「王子」 「頑張って くれた のに こんな風に しか 思えなくて ごめんなさい」 「……いや、そういう風に思ってもらえて光栄だ」 俺の腰、抱え直した手で手綱を掴み直して。 空いた手でようやく顔にかかってる布、どかしてくれた花井君は。 最近、ずっと塞いだ顔をしてたけど、笑ってくれてるのが見えて、俺も。 嬉しくなった。 「王子、左手を貸してもらえるか?」 「? はい」 今度こそ体勢を崩さないように、そっと。 差し出された花井君の手の上にてのひらを重ねたら。 「二度と王子以外に膝を折らないことを、誓う」 薬指の上に、誓いが落とされた。 俺たちの国で、一番大切なことを相手に誓う、儀式の時みたいに。 「夜明けが証人ってことで。……まだ時間があるけど、どこか行きたいとこあるか?」 「どこ でも!」 こんな風に花井君に連れ出してもらうのは、滅多にないからどこでも嬉しい。 それにまだ夜が明けたばっかりだから、一番過ごしやすい気温でどこまででも。 連れて行ってもらえそうな気がした。