100個で1組のお題 映画100 061:ガラスの動物園 終着駅が大陸最大の歓楽街『エデン』であることからそのメトロは『ヘブンズゲート』と呼ばれたりもする。 『エデン』の娼館中でも三指に数えられるその店が取り扱うのは美女でも美少女でもない。 天使の名を源氏名として称している高級男娼を抱えているその名も『純潔の館』 オーナーは『夜の帝王』などという内輪では爆笑モノの二つ名を抱く表向きは青年実業家。 裏の顔は人の命と臓器、死の商人と呼ばれるような代物以外はすべて扱うクリーンな商人。 まあこれも内輪では大爆笑のネタではあるが。 「で、帝王様はこの際どうでも良いとして、和己」 「俺が知ってたら山ちゃんに内緒にするわけがないだろ」 「だよね。ってことはあれかな、そこで一生懸命俺と目を合わせないようにしてる人が知ってるのかな」 にこにこと笑っているのかそうでないのか今一つ分からないのは。 彼が糸目だからだ、と。 入ったばかりの人間は思うらしい。 まあ、慣れれば大抵の場合は表情ではなくて口調で判断できる。 顔だけは信じてはいけない。彼の場合は。 「まさかこのキラキラ光ってる山を知らない、とは言わないよね、タケ」 「……準太です」 「だって、準太。さー、白状してもらおうか」 開店前の『純潔の館』の部屋持ちでありオーナー専属のセラフィムの部屋。 そこには飾り気がないけれどベッドからソファからカーテンから何から何まで。 最上級のベルベットやレース、木材で誂えられた調度品しかなかったはずだった。 昨日までは、確かに。 「このキラキラしてるのは、何かな?」 「…………や、えっと、タケ、俺のせい?」 「お前だろ」 「違うって! だって、和さんも山さんも聞いて下さいよ!」 小さな空き箱と包装紙とリボンが散らばったその近くに築かれたキラキラと光るそれは。 「好きそうだと思って出してた懸賞が当たったんで、プレゼントしたんです」 「その場に俺もいて、何が当たったのか一緒に見てたんです」 「開けた瞬間に可愛い、って言ったんですもん! なあ利央!」 「ええっ!? え、あ、その、えっと、うん、言いました。言ったんだよ、廉が」 「言ってる廉の方が可愛くて、つい」 「準さんだけ喜ばれんのずるいと思って、つい」 「で、それを知った榛名やらその他諸々が贈り物をした、と。そういうこと?」 「「はい!」」 スワロフスキーの、ペンギンやらうさぎやら蝶やら何やらの、小さな置物。 だけでは済まなかった。 ひと際大きな箱を開け、その中身を見ていた三橋は。 申し訳なさそうに縮こまりながら、山野井を見上げる。 「で、その悪趣味通り越して馬鹿としか思えない手錠もどきが贈られたってことで合ってる?」 誰から、の主語以外も大幅に省いた山野井に頷き返すと、しゃらりと冷たい音が鳴る。 自らつけようとは思っていなかったに違いないが、三橋のこと。 これはなんだろうと水晶でできた鎖を手繰り寄せている間に運悪くはめてしまったのだろう。 当然のことながら、箱の中に鍵は入っていない。 「タケ、オーナーの予定は?」 「7時から空けさせられました」 うわぁもうどうしようもねえ、と。 げんなりする部屋の住人マイナス1をキラキラした目でペンギンやらうさぎやら以下略が見つめていた。 7時まで、あと5分。