100個で1組のお題 映画100 062:明日に別れの接吻を 本気で最初は全然欠片も興味がなかった。 近衛にも王宮にも王族にも、もちろん王子にも。 でもきっかけ一つで人は簡単にそれを自分の運命だと悟ることができる。 「密命、だ?」 「あははー、出世の方向間違えちゃった」 「つかお前密命を俺にバラしてる時点で首切られるんじゃないのか?」 「はっ! あ、泉、内緒、内緒にしといてね!」 「別に良いけどよ」 王都に行って一人前の男になって帰ってくる、と。 そう言って故郷を出ていく奴はそう珍しくない。 俺の幼馴染も例外ではなく、確か料理人になると言って出て行ったはずだ。 半年くらい前に。 それがなんで、密命なんて賜って帰郷するんだか。 「ああ、そだ。こっちの方の観光したいって言うから連れてきちゃったんだよね」 「? 同僚かなんかか?」 「ううん」 広場の噴水に腰かけている日よけの防塵布の塊が連れらしい。 さっきからいろんな奴らに声をかけれては食いもんばっかりもらってるように見える。 「大声で呼べないからこっち来てもらって良い? 紹介すっから」 「ああ」 大声で呼べないってなんだよ、と。 疑問に思いつつも浜田の後について防塵布の塊のすぐ近くまで。 見下ろしたそれは、子供サイズ。 俺もまだ背が高い方じゃないから、もしかしたらさして年が変わらないのかもしれないが。 「お待たせ、王子」 「ハマ ちゃん。あのね、みんなが 色々くれた よ」 「ここらの奴らはみんな親王宮派だからな。良かったな、王子」 「うん」 「あ、そーだ。王子、こいつ俺の幼馴染で泉。泉、この子王子」 「……………………」 防塵布の下には夜空で輝いているのと同じような淡い色。 砂色の、王族特有の目。 零れそうな、大きな目が俺を見て。 「はじめ まして」 「……初めまして」 にこりと笑ったので、無言で後ろから浜田の足を蹴ってみた。 「! なにすんの!」 「痛いんなら現実だな。で、密命ってなんだよ」 「観光。なー、王子」 「うん!」 それから三週間ほど一緒に過ごして、王都に王子が帰る日になって。 「お 願いが あるん だ」 「俺に?」 全身で頷く王子の頭を撫でてやることで承諾の意を示す。 不敬罪にしか当たらないんだろうけど、どうにもこの王子という存在は。 手間がかかって面倒もかかるけど、目も手も離せない。 「あ、王子ようやくその気になったんだ?」 「! だ、め かな」 「王子がちゃんと自分で決めたんだったら誰も文句言わないって」 俺と同じように王子の頭を撫でた浜田がするりと部屋を出ていこうとするので目で問えば。 「こればっかりは邪魔しちゃいけないからさ」 「は?」 「終わったら呼んでな、王子」 「は い」 二人だけで分かりあえているらしい謎の行動に首を傾げつつ。 王子に向き直れば、砂漠色の目が俺をしっかりと見ていた。 「泉孝介殿。私の刃となってくれませんか?」 いつもとは全然違うしっかりとした声の響きに目を丸くしている間に。 王子は俺の利き手、右手に額を押しつけて俺の前で膝を折った。 邪魔、って。 刃って。 考えるのを放棄して、俺は王子の左手を取った。 取られた手と逆の手を取るのが、礼に応える、誓約をするときの礼儀だ。 「我が身はあなたの刃となり盾となり、果てるその時まで御身に忠誠を誓います」 誓いをのせた唇をそのまま薬指の付け根に当てる。 「よろしくな、王子」 「よろ しく お願い します」 その瞬間、俺は自分で自分の明日を決めた。