100個で1組のお題 映画100 067:反逆のメロディ 貴族の息子に生まれたら貴族。 そういうレールが敷かれているということに不満を持った記憶があまりなかった。 というか。 「すーやまー!」 「田島? どうかしたか?」 「俺、近衛の騎士やることにした!」 「……は?」 ほぼ人質に近い形で王宮に送り込まれてたので自分が貴族だという認識がなかった。 それは幼馴染と言うか気付いたら一緒にいたこいつ、田島も同じらしい。 部族の倅と違って貴族は王宮というか王族の恩恵を受けて生きている。 ので裏切らないように可愛い子供を寄越せってのが命令じゃないけど暗黙の了解になっている。 「こないださー、式典だっけ? あったじゃん」 「ああ、うん」 「そんときに端っこでぶるぶるしてんのいたんだよ。おーじ」 「……ああ、うん、いたな」 「俺、あいつの騎士になる」 「………………そうか」 兵士宿舎で一日中遊んでいることが多い俺らは大人と比べたらまだまだだけれどそこそこに。 近衛の騎士の試験に挑戦できるくらいの力量は身につけているはずだった。 現に兵士三年目くらいの奴になら五割は勝てる。 「あ、でも貴族の子供って近衛に入れないんだっけか?」 「そんなことを聞いた記憶があるけど」 「えー、どうすっかなー。俺あいつって決めたのに」 ま、いっか。とりあえず手合わせしよーぜ、と。 もちろん真剣ではなく練習用の木刀をぽいっと投げてきた田島には何を言っても無駄そうだった。 特例中の特例で地方貴族の子供が近衛の試験に受かってもう既に王子の傍らに在ると。 言ったところで、多分自分でどうにかしちゃえる奴だから。 「すーやまー」 「お、田島。久しぶりだな」 「おー。あのさー、俺ちょこっとここ離れっから」 「は?」 久しぶり、という言葉ほどそぐわない言葉もない関係だったはずなのに、ここ数年。 田島は完全に兵士宿舎で生活していて俺はやっぱり人質扱いのままだった。 「戦功挙げに行ってくる」 「戦功って、一般兵に混じってか?」 「ん」 帰ってきたら俺褒美に騎士の座狙ってっから、と。 相変わらず独特な思考の持ち主は宝飾用のそれではなく。 かといって守るためでもない鈍色の刃が納まっている鞘をぺちりと軽く叩いて。 「なー、巣山はどうすんの?」 口調に似合わない鋭い光を俺に向けた。 自分の腕で自分の得たいものを得ようとする田島と。 元は同じ境遇だったのに腕を、手を伸ばさなかった俺。 「お前が戻ってくる頃には、違う俺になってるはずだよ」 「そっか。楽しみにしてるな!」 そう笑って踵を返した田島が帰ってきたのは半年後。 で、俺はその間何をしていたかと言うと。 「王子、もう少し重心を低く保つと良い……うん、そんな感じだ」 「立 てた!」 「喜ぶのも良いけどよそ見すると……な?」 「は い」 試験に受かるでもなく特例に倣うでもなく、王子の馬術の教師になっていた。 まあ剣術も得意と言えば得意なのだけれどそれよりも馬の扱いの方に慣れていて。 一芸に秀でている人間を王子の傍に仕えさせたいという王子の周辺の推挙があって、いつの間にか近衛になっていた。 田島には悪いけれど、あいつは必ず王子を守る剣になるだろうからそこは狙わずかつ王子の近くに在れるように。 式典のときに居場所がなくて居た堪れない様子だった王子を見てあの人だと思ったのは何も田島だけじゃない。 震えていたけれど決して逃げ出さなかったあの王子に俺は膝を折ると決めたのだから。 「…………ええと、巣山って、あれ、もしかして、ずるい?」 「お前に言われたくないけど?」 「ええっ!? 嘘、俺のどこが」 「ああ、水谷には言われたくないよね」 「ちょ、なに、なんなの沖まで! そんな性格じゃないでしょ沖は!」 「「王子に責任取らせたから」」 沖と巣山の平坦な口調に零れそうになった涙が引っ込んだ。 ほんっとに愛されてるなー、王子。 でも責任ってさー。 「俺、今死人扱いなのよ? 王子に処分されたことになってんのよ?」 「そりゃ敵国の軍人を近衛に組み込むわけにはいかないだろ」 「良かったね、水谷。お陰で王子に箔がついたって。そんなの全然要らないのにね」 にこにこにこ。 俺って、立場弱いなーって。 改めて思いました。はい。