100個で1組のお題 映画100 068:恋する惑星 歌が上手いんじゃなくて芝居しか知らない、演じることが生きることと同じなのになぜか。 なぜかそいつは演劇界のアイドルって不名誉なレッテルを貼られてた。 舞台でしか演技をしない。 ドラマにもCMにも出ない、舞台人。 三橋廉、というのは地球に合わせた芸名で本名はレン・ミハシ。 地球人でも地球出身の月コロニー在住でもなく太陽系の外出身のまあ、昔で言う宇宙人。 太陽系在住の俺らが良く使う言葉だと異種族ってやつだ。 アンジェロってのが地球人が付けた呼称で、要するにある時期までは中性。 ある時期に突入して安定期を迎えた後に男か女になるって種族らしい。 その「ある時期」ってのが俗に言う思春期で。 パートナーの性と反対の性になるのが、通常らしい。 どっちつかずの危うい容姿と自分の色を主張しすぎない脇役としての絶妙な演技で人気を博している、と。 資料には、そう書いてあったけど。 「……お前本当に演技できんの?」 明日から幕を開ける舞台の公開稽古を見に行こうと足を伸ばした劇場の。 関係者入口で止められてるキャスケットからはみ出た蜂蜜色に後ろから声をかけたら危うくひっくり返りそうになった。 ほっそいうっすい体をよいしょと小脇に抱えたら警備員が通してくれた。 しがない映像作家の俺の顔の方が知られてるのってどうなんだろう。 まあ良く出るけど、顔出しするけど、美青年だから、自他共に。 「は るな さん」 「そ。ハルナモトキ」 「ハルナ さん」 「発音そっちで合ってる。お前はレンだよな」 「は い」 「なんで裏主人公が警備員に止められてんだよ」 「あ えと いつも」 「お前みたいなの一般人と間違えてんの? あいつらの目死んでんな」 下ろすのも面倒臭いから小脇に抱えたままずかずか控え室まで搬入して、ぽいぽい靴も脱がして畳の上に転がす。 中くらいの劇場はなんでだか日本の畳の控え室が主流で靴で上がってはいけないらしい。 つっかけてたスニーカーの踵を踏んで脱いで俺も上がる。 ぼけっと俺を見上げる蜂蜜色は参考資料で見たはずの映像のそれと重ならない。 慌ててキャスケットを外して正座して両手を膝の上に揃えるのが面白かったけど突っ込まないで目の前に座った。 「お前のとこに話行った? 俺、お前で本編撮りたいっての」 「本編 を お れで」 「お前以外浮かばなかった。俺の幼馴染が絵本作家やってんだけど、そいつの脚本で」 自主制作にしようかと思ったけどそいつも俺も使いたいこいつも知名度が高すぎたからそっちにできなかった。 80分の本編。 「事務所つーか劇団通そうとしたら主宰に却下された。あの姉ちゃん何者だよ」 「モモ カン は 俺 見つけてくれた 人 です」 「あの人が駄目つったら駄目か?」 こいつが役に入りきった瞬間の顔を見て、こいつしかいないと思った。 それを上手く伝えらんなかったのが敗因だって分かったから、こいつから攻め落とす方向に変えた。 思いっきり卑怯だけど、こいつじゃなきゃあいつの脚本も意味ない。 「俺が何作ってんのか見て、お前が判断しろよ、レン」 ロム一枚と脚本と絵コンテを卓袱台の上に乗せて、ついでに蜂蜜色をかき混ぜて控え室を出た、ら。 「……お前立ち聞きしてたのかよ。趣味悪いなあ、タカヤ」 「あんたここに何しに来たんだよ」 「主役口説きに来たに決まってんだろ。あ、この芝居のじゃなくて俺のな」 「は?」 「公開稽古だからって気ぃ抜くんじゃねえぞ、演出」 昔馴染みには宣戦布告しておいた。昔から妙に噛み付いてきやがるから、後で文句言われないように先に。 開始まであと二時間。さて、どこにどう仕掛けるか。