一曲お願いできますか、と。 白いドレスでワルツを 「夜会だっけ? 結局パニックになっちゃったからさ」 「それと、私と、どう関係があるというの?」 「せっかくだから、白岐も来ないかなって」 大きな包みを持って温室に現れた彼は。 冬でも綺麗にこの子たちが咲くのは白岐に笑ってほしいからだね、などと。 私が好きな花の一つ一つの名前を挙げては笑顔で近付いてきた。 「阿門に頼んでみたら、意外とすんなりOKくれてさ」 真っ白な箱を手渡して。 今すぐに開けてくれというから開いたけれど。 「……これ、は?」 「通販って便利だね」 中に入っていたのは、真っ白な、シルクのドレス。 目を凝らせば細かな刺繍がふんだんに施されたものであることが分かった。 「サイズは合ってると思うんだ。ああ、個人情報の入手ソースは内緒」 「これを、どうしろというの?」 「今度の夜会は盛装可だそうだから。似合うと思うんだけど」 にこにこと。 笑みを浮かべる、この人は。 「ああ、勿論びっちりタキシード着込んで行くからさ。行こうよ、白岐」 いつだって、こう。 鮮やかな笑顔で光へいざなう。 「私で良いの?」 「白岐が、だよ」 「あの人は良いのかしら?」 「せっかくのパーティなのにとびきり可愛い子を誘わないで誰を誘えって?」 中には入ってこないけれど。 外で、待っているはずの彼が。 この人の大切な人で。 今私を誘ってくれているこの人が。 彼の大切な人だというのは、誰もが分かっているのに。 「九龍、でもこれは」 「人が多い場所が好きじゃない人を無理に誘うんだから、そのお礼」 「でも」 「ついでに一曲踊ってもらっちゃうお礼」 この人の誘いはいつでも嬉しくて。 つい、頷いてしまう。 「……ありがとう、九龍」 「どういたしまして」 「でも、私は踊れないわ」 この人の顔を曇らせたくないのに。 私には、こんな言葉を返すことしかできない。 「ああ、それなら問題ないよ。ワルツばっかりお願いしたから」 「ワルツ?」 「一曲お願いできますか、姫君」 すっと差し出された手に、ためらいながら自分の手を重ねる。 「この距離で俺を信頼してくれたら、簡単だよ」 僅かだけ下にある目を見つめ返して、頷く。 少しだけ、その日が楽しみになった。 end