眠れないのだ、と笑うから。 僕が叶えてあげる 夜中に墓荒らしなんぞしてるからだ。 悪いがどうしてもここが良いらしい。 更に申し訳ないついでに言うならばお前のピアノを子守唄にしたいらしい。 足元はあまり気にしないでやってくれ。 いつも気だるげな彼が。 まさか、僕に。 「皆守君、そんな、あ、あの」 僕ほどではないけれども細長い身体を折り曲げて、音楽室に入ってきた彼は。 小脇に。 (そう、本当に軽々と小脇に抱えて) 「ピアノの下が良いそうだ」 抱えていたはっちゃんをそぅっとピアノの下に横たえた。 自分の制服の上着を下に敷く事を忘れずに。 (ああ、一瞬彼が誰だか分からなかった理由が分かった) 「本当に、そんなところで」 良いのかい? と続けようとしたら、首を縦に振られた。 ピアノの下では子守唄と言うよりも振動の方が多く伝わってしまうだろうに。 「こいつのたっての希望だ」 だからさっさと弾いてくれないかとばかりに睨まれては、僕はそれ以上の言葉を紡ぐ事は出来ない。 子守唄に相応しそうな曲を抑え気味に弾いてゆく。 「……鎌治、のピアノだ」 「漸く起きたか」 二十分ほど経った頃だろうか。 ピアノの下から寝惚け気味の声が聞こえた。 「はっちゃん」 んー、とピアノの下から這い出してきた彼は軽く瞬きをするとにこりと微笑んだ。 「良く眠れた。ありがとう」 「どういたしまして、と言いたいところだけれど。はっちゃん、君は無理をしすぎていないかい?」 僕を。 僕以外の多くの人も。 あの遺跡から救い出してくれた。 その手を。 光を。 求めている人がまだいる事を知らないわけではないけれど。 「とうとう鎌治にも言われちゃったか」 「何がとうとう、だ。良い機会だ。もっと言ってやれ」 軽く埃を叩いて上着に袖を通しつつ皆守君は僕を見た。 「……君に元気がないと多くの人が心配をするよ」 「あー、うん」 「だから」 子守唄代わりに求められるのでも構わない。 君は僕に光を取り戻してくれた大切な人。 「だから、無理をしすぎてはいけないよ」 君の為に僕が出来る事ならば何だってするけれど。 僕が叶えられる事は全て叶えてあげたいけれど。 「……善処するよ」 だからまた子守唄引き受けてよ、と。 笑う君に苦笑を返す事しか出来なかった。 end