鮮やかな世界になる。 肩越しに見た世界 屋上で独り。 アロマを燻らせていた頃は、その煙と同じ色でしかなかった。 何もかも。 世界の全てが同じ色だった。 「甲太郎?」 次の授業に出るためだと。 俺を起こしに来た九龍を抱き寄せ。 不用意に触れないようにアロマの火を消し。 細い肩の上に顎をのせ、見る世界は。 「忘れてたな」 「何を」 「色を」 「は?」 昔、見た。 プリズムを通した太陽の光は七色なんて僅かな色に分けられるものではなく。 多くの色が、真っ直ぐな線を描いていた。 あの頃と、同じ。 たくさんの、色が。 「目に見えない色があるって、知ってるか?」 「ああ、赤外線と紫外線。それが?」 「……見えなくても、分かるもんだな」 溢れる光。 捉えることができなくても、満たされていると分かる。 この肩越しに見える世界は。 「お前、そんなに物理が好きだったか?」 「いや全く」 「……もう、いい」 俺に色を取り戻させ。 光を。 望むことを赦してくれるような。 そんな、世界で。 願えるのならば、その世界の。 住人に、なりたいけれど。 「授業に遅れるぞ?」 「あともう少し」 「……しょうがないな」 呆れたように呟いて。 背中に回された腕に気を良くして。 限られた時間だけ、あの世界を。 垣間見ては、自嘲する。 偽りを抱えた分際で。 光を手に入れる資格など無いと。 end